第5話
他にも、いろいろ内容は書いてあったが、自分の目線は吹き出しの下にしか行かなかった。何度もその4文字をみた。「どうして」も、「いやだ」も返せなかった。三年間で成長したいびつな関係はどこかで根元からきちんとつんであげないといけないんだと感じた。私みたいな生半可な考えは認められないのだと思った。私から、この関係に終止符を打ったつもりだった。なのにどうして、私はこんな悲しくて、泣いているんだろう。私が彼氏とつきあうことで、彼女への後ろめたさも私への思いの足枷も、私の罪悪感もすべて消せると思った。でも、彼氏が出来た。そう伝えた日から悲しそうな声を聞くのが辛くて、それに対して私が悲しむことは間違っていて、きっと彼氏もどこかで私の気持ちを感じていたのかもしれない。私が幼かったから、子どもの恋愛ごっこをしていたから、こうしてずるずると時間を長引かせて、余計に悲しませてしまったのかもしれない。何か言い訳をつけて、自分を悲劇のヒロインぶるのも、これ以上誰かを悲しませルのもいやだから、前を向く。そう決めた。私が作れる幸せをちゃんと作っていこう。そう決めていたはずなのに、もう二度とかけられない電話、交わせないメッセージ、会えない顔。どうしてこんな苦しいんだろう。声を出して泣いた。言えなかった気持ちが全てあふれ出た。こんなにも、心を埋め尽くしていたなんて。
悲しくても世界は待ってくれない。夜が明けたら、また職場に行かなくてはならない。採用試験の結果が出たのが先でよかった。いやでも仕事に行かなくちゃいけない。どうして、早くお風呂に入っておかなかったんだろう。涙が流れて、顔に不快な感じを残す。鼻をすするとのどが苦く感じる。鼻水があまり出ない私は昔から大泣きするとそうだった。悲しんでいることを全身で感じた。どうすれば、こんな夜をむかえなかった?こんな終わり方をしなかった?私が悪かったの?誰かを悪者にしたくなくて一生懸命責めた。テーマパークのイルミネーションも、観覧車から見た夜景も、フラミンゴを見ながら食べた海鮮料理も、全部全部罪だと思おうとした。でもどこかわかっている。もし、あのとき彼女と別れてくれたら。あのとき、私の気持ちに応えてくれていたら。ちゃんと感じた気持ちを伝えてくれていたら。最後の最後まで言ってくれなかったね。先輩の好きな歌手の歌にもある。
「好きだよ」と伝えればいいのに
これはきっと私達みたいな関係の歌じゃない。こういうのはちゃんとハッピーエンドになるための歌。ちゃんと前向いて生きてね。それすら心配になる。私はなんて返したら、どう対応したら良かった?気持ちを伝えた方が良かった?最後の言葉、もっとちゃんと言いたかった。電気をつけたまま、気付いたら泣き疲れて寝ていた。どれだけ悲しんでも、通勤時間に間に合うように起きれてしまう自分がいやだった。わかっているけど、体温を測った。目元が腫れている。冷凍庫から保冷剤を出して冷やすが、あまり効果がない。昨日入り損ねたシャワーを浴びる。顔を流れていくお湯に涙も混ざっている気がした。仕事は珍しく忙しく、普段は雑談をする上司もそれどころではなかった。なんとなく目の腫れに周りは気付いているようだが、特には触れられなかった。社会人になると、一時の感情に生活を流されることがないなと思う。どれだけうれしくても、悲しくても、次の日はやってくるし、仕事は待ってくれない。仕事を休むことも選択肢だが、仕事をしないと生きていけなくなる。いろいろなことをやめていって、最後は生きるのをやめていくんだ。どうして、人は生きていかなくちゃいけないんだろう。何のため?死んじゃいけない理由は世の中たくさんあるし、自死を選ぶことは世の中的には悪とされ、生き続けることが良とされがちだ。人を殺していけない理由はある。でも自死を選ぶ権利を認めないためには、どのような理由があるのだろか。世の中は、生きていくのが辛い。というと、世の中にはもっと辛い人がいるだの、打たれ弱いだの、根本的な解決方法をなかなか教えてくれない。死にたい。わけじゃない。どうして、生きていなくちゃいけないのか、生き続けなきゃいけないのか、そもそも私は生きていて良いのか。その理由がわからない。頑張り続けても将来は不確定だ。だったら、この幸せな空間の中、人生を中止してどうしてダメなんだろう。今、一番かわいくて、強くて、大好きな自分でどうして終わらせてくれないんだろう。あの日、夕日が射す教室。赤い線を刻み続ける彼女に私はどういうべきだった? 自分がずっと嫌いだった。誰かの理想になれない自分が。望まれた自分になれない自分が。すごい人になれない自分が。自分をきちんと愛してあげられない自分が。そんな自分が、他の人に影響を与えるのがいやだった。自分のことが嫌いで、無価値だと言うことを感じているから、人に見捨てられたり、がっかりされるのが辛かった。いやでも、誰かと関係を持たなくてはいけない自分がいやだった。私を肯定して欲しい。今、肯定してくれるのは彼しかいない。そう思った。何度も、LINEの既読を確認して過去のメッセージを漁った。それと同時に、自分のような醜い人間が、彼のような崇高な人間に迷惑をかけてはいけないと思って、別れて欲しいと願うようになった。寝ようと目をつむるとき、彼を失ってしまったら、誰が自分を愛してくれるのかわからなかった。家族が私のことを愛してくれていることはわかっていた。そうじゃない。身内だけじゃない。もっと社会の人に、認めて欲しかった。自分の外見に気を遣うことも、資格を取ろうとすることも、彼氏のためだけじゃなくって、周りの人にすごい人って思って欲しかった。それが満たされないことを感じると、とたんに生きていて良いのか、不安になった。ありのままに生きていけば良い。家族はそう言うけれど、誰かの期待にそって、少しでも好いてもらえるように生きてきた自分のありのままって何。
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