第3話

出会って四年目を迎える春先、生暖かい風に吹かれながら考えた。先輩も私も歳をとって、先輩はアラサーになる。私は、母親が自分を産んだ年齢を向かえることになる。関係は変わらなかった。落ちて、壊れるくらいならそのままで良かった。そう思っていたけど。求められて満たされても、結局ここに収まることはないのだとなんとなく感じた。ちょうどそのとき私には連絡を取っている男の子がいた。私が四年生の時に、バイト先に来た一年生の男の子だ。彼は私の事が好きらしい。卒業するとき、告白された。でも私は、それを断った。私は汚れきっていたから。それが表向きの理由。きっと、先輩との関係に終止符を打つのがこ怖かったんだと思う。何かが変わってしまうのがいやだった。それでも、後輩の男の子は諦めなかった。どこかで私が悪い魔法にかかっていたのを知っていたのかもしれない。

「ずっと待ってますから。」その言葉に期待して、彼に交際を申し込んだ。むなしさを埋めるために。もちろん先輩には言わなかった。だから関係は続いていた。


自分の事を好きな人と一緒にいれば、自分に対する肯定感は保たれるんじゃないかと思っていた。だから、全然好きじゃなかったけど、彼と付き合った。彼は私に対して、好きだっていってくれたし、言動からもそのことがよくわかる。幸せだと感じた。けども、これだけ思ってくれているのに、こんな私で大丈夫なのだろうかと不安になった。その不安を口にすると、「ありのままの聖瑋ちゃんが好きだから。」と満点回答を返してくれた。彼の学部は法学部で、入学するのも大変であれば、一人前になるのも大変で、毎日閉館ぎりぎりまで図書館で勉強をしている。大学を卒業しても、特に就職活動をせず、大学近くの市役所で非常勤の仕事をしている私が惨めに感じて、正規採用に向けて勉強をするようになった。釣り合ってないと思われたくなくて、身なりにもお金をかけた。自身の見た目に気を遣っていなかった訳ではない、ブスがどれだけ頑張っても無駄。と諦めていた。けれども、脱毛に通い、パーソナルカラーや骨格診断を受けた。美容系の動画やSNSを繰り返し見るようになった。こうした私の変化を彼は最初、無理させていると思って、「そんな頑張らなくて良い。」「心配だ。」といっていたが、そのうち、「今まで自分に対して興味のなかった聖瑋ちゃんがそれだけ自分のために頑張ってくれてうれしい」といってくれた。自分でも何のためにこんなに頑張っているのかがわからなかった。彼が家に来たときは、きちんとレシピを調べてご飯を作ったし、部屋の掃除もくまなくした。そんなとき、先輩から会いたいと言われた。

 彼のことが好きなわけではない。そう思っていたから、先輩の「会いたい」に反応した。先輩は「一ヶ月後に旅館を一泊で予約した。」と連絡をくれた。一泊と言うことは、そういうことをするんだろうな。と容易に想像がついた。だからといって、そこに対して何か言うのは今更だった。二つ返事でOKして、彼氏への会えない言い訳を考えた。「実家の家族に会いに行く。」、そう言うと彼は納得してくれた。少し苦しかった。

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