第2話
電車が一時間に一本しか走らない田舎町で「田中聖瑋」は長女として生まれた。高校を卒業してすぐ就職して結婚した親は、自身の宝である私に様々なものを与えて、その代わりとして背負わせた。自身達が家庭的・金銭的理由で叶えられなかった夢を補おうとした。だから、私は田舎町の小学校で、誰も行かない中学を受験した。そして中学生のころには町を離れてスクールバスで通学した。自転車に乗るセーラー服の友達を見下ろしながら、バスに揺られていた。小学校のころの友達が、地元企業で就職する中、私は県外の大学に進学した。両親はとてもうれしそうだった。それを見て私もうれしかった。参加した地元の成人式では、大学のことをたくさん聞かれた。人魚姫のお姉さんが妹に教えるように、目で見て経験したことを話した。友達の一人は、「今度結婚するから招待するね」って言ってくれた。どこかで赤子が泣いた。
「お姉ちゃんなんだから、ちゃんとしなさい。」
「聖瑋は出来る子よね?」
「仕方ないことでしょ、わかるでしょ。」
出来ないことがあると怒られた。出来なかった事に対して、才能がないと思われたくなくて、家族をがっかりさせたくなくて、自分の努力のせいにして、泣きながら練習した。出来ないことが増える度、自分の価値がなくなる気がして、どうしたら良いかわからなくなった。周りの期待にそわなければ必要ない。生きていくためには、誰かのためでないといけない。そして、誰かの願いの通りに生きて、その願いを叶えていくことが私が生きていく理由になった。だから、男に身体を求められることも、「生きていて良いよ。」って認めてくれる気がしてうれしかった。自分の生存の理由を求めて、いろいろな男の人と夜を明かした。大学生だから。って言い訳をつけた。性交の前戯として、飲食店でご飯をすることが多かった。
でも、先輩からの連絡は純粋な優しさからの誘いで、男性と飲食店に行く行為と一緒にしたくないと感じた。だから、私は丁重にその誘いを断った。
「また今度、都合があったら行きましょう。」その社交辞令を、先輩はそのまま受け入れた。結局、その二ヶ月後、二人で飲むことになった。今思えばそこから、おかしかったのかもしれない。一次会の居酒屋で、県外に同じ大学だった彼女がいることを知った。うやむやな記憶の中行った二次会の宅のみで私達は一線を越えた。朝、下着が身についていないことを確認して確信した。行為自体は全然覚えていなかった。結局、先輩も他の男の人と変わらなかったんだ。そう思って安心した。先輩との関係はそれから、今日まで続いた。性交ばかりじゃない、ご飯を食べたり、映画を見たり、人に隠れていろいろな事をした三年間だった。その過程で、遊んでいた他の男の子達との関係は綺麗になくなった。最初のころは彼女や周りへの罪悪感や背徳感もあった。でも、三年間先輩は一度も好きとかそういうことを言わなかった。「彼女のことで悩んでいる」とだけいった。私は深入りしなかった。私は彼氏がいないし、手を出したのは向こうだから、いつでももとの関係に戻れる。そう思っていた。彼女から怒られる事もなかったし、「もうやめよう」と言われることもなかった。お互いの欲望のままに時間を求めた。「やめたほうがいい」学部の友達には止められたが、気に留めなかった。どうして、男女で会うと人の噂になってしまうのだろう。同性で会う分には何も言われないじゃない。なんで一緒にいちゃいけないの?異性だから?彼女がいるから?じゃあ、彼女がいない人なら、付き合ってなくても手を出しても良いの?そこに愛はない?わからないじゃん。でも身体を重ねているときは私を求めて、肯定してくれている気がした。愛がなきゃ何でダメなの。自分を認めるための性交渉は悪?それは相手がかわいそう?でも彼もきっと、彼女で満たされない何かを満たしているよ。彼女がかわいそう?うん、私もそう思う。でもそれって私に関係ないじゃん。先輩だって、彼女と別れたっていわなければ、私に終わろうとも言わないよ。じゃあ、いいじゃん。私、友達だから。そう言いくるめて、自分を守った。でも気付いた。むなしいって。
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