第7話
「狼狽えるでない!」
プププートは、玉座から怒声を飛ばす。
ここ最近、アノイトスでは不安の声が大きくなっており、城下もその噂でもちきりとなっていた。
重臣の一人が進み出た。
発言の許可を待っているのだ。
プププートは、顎を軽くしゃくった。
重臣は、それ経て言上する。
「陛下。宮城から見える景色も変わって来ております」
「たかが、雪が降った程度だろう。魔王討伐に行った時など、吹雪の中の進軍もあったのだ。大したことか?」
そこへ、別の重心が声を発した。
「この国は開闢以来、雪など振ったことはござ……」
「誰が進言を許可したかっ!」
「も、申し訳……」
プププートは、不愉快で仕方なかった。
特に、ここ一ヶ月は、毎日まいにち国の重要案件だ、と重臣たちに謁見の間に来るよう請われる。
そこで話す事と言えば、木々が枯れていただとか、作物の取れない地域が出て来ただとか、動物たちが数を減らしているなどと言って、大騒ぎしているのだ。
プププートの耳にも町の噂は届いている。
聖女を追放したからではないか……?
臣下の誰も面と向かって言わないが、そんな表情をしているのだ。
まるで自分が悪いと言われているような様。
プププートは、毎晩、とっかえひっかえ新しい下女を呼びだしては、不満をぶちまけながら腰を打ち付けていた。
そうやって、ストレスを解消しても、次の日にはまた同じ話しの繰り返し。
プププートは、臣下の顔を一人ひとり苛立ち塗れに睨みながら見ていく。
皆、目を合わさず少しうつむき加減に縮こまった。
そこで、一人の男に目を止めた。
口角が吊り上がり、下卑た笑みとなる。
「おい、辺境伯」
そう呼ばれた男は、その瞬間、肩を上げた。
そして恐る恐る、返答する。
「……は、何でございましょう」
「貴殿には年頃の娘が居たな、領地内では大変な才色兼備と噂になってると聞く」
そこにいる、臣下たちは皆、目を瞑った。
辺境伯が、この後何を言われるか、分かっているからだ。
ここにいる、臣下の者たちの中には、既に手を付けられた娘を持つ親が居るのである。
「ご、ご勘弁を! ど、どうか、まだ花も咲かぬ蕾にございますれば!!」
「それが良いのではないか。余が花を咲かせてやろう」
「花を散らすの間違いだ!!」
辺境伯は、思わず口が動いていた。
気づいた時には遅い。
謝罪の弁も許されず、衛兵に腕を掴まれ、うつ伏せに押し倒され、顔を地に押し付けられた。
「その馬鹿を牢に放り込んでおけ。娘を差し出す気になったら兵にでも伝えておけ。牢から出してやる」
衛兵に猿ぐつわを嵌められ、縄を打たれ、引きずるように連れて行かれた。
臣下たちは皆、何も言わなかった。
動揺も見せず、ただ黙したまま俯いていた。
プププートが王になって以来、幾度となく見てきた光景。
抗弁も苦言も諫言も一切許さぬ王。
暴力による恐怖政治そのものだった。
(魔王討伐の英雄だと宣うが、どちらが魔王か知れたものでは無い)
そう、まことしやかに囁かれていた。
「おい」
プププートは、一番最初に発言した重臣に顔を向け呼びかけた。
「今日の話はこれで終いだ。後宮に最高級の酒と新しい下女五人を連れてこさせろ」
「……まだ……」
「返事はどうした!」
「か、畏まりました……」
プププートは、玉座から飛び降りると、大股で歩きだし、横扉から出て行った。
臣下は、王が去ってしばらくした後、やつれた顔やため息を漏らしながら、謁見の間を後にしていった。
しかし、その中の数人。
残った彼らは中央に集まり、何やら謀議でもしている様な雰囲気を醸していた。
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