第3話

 国の城下では、新王の誕生で盛大なパレードが催されていた。


 一方、その頃。

 追放令を受けた公爵家の玄関前には数台の馬車が連なっていた。

 荷台用が一番多い。


 続いて、人を乗せる用の大きいものが二台。

 豪華な装飾が施されたものが一台。


「旦那様、お嬢様、整いましてございます」


 執事と思われる男が、公爵とアティアに声をかけた。

 公爵が、一つ頷くと、執事が周りにいた従者たちに指示を出した。

 皆が、それぞれ馬車に乗り込んでいく。


 執事は、先頭にある豪華な馬車の扉を開く。

 公爵、そしてアティア、最後に執事が乗り込んだ。

 中で、執事がベルを鳴らすと、合図を受けて馬車はゆっくりと進みだした。


「代々受け継いできた地を去らねばならんとは……。お前たちまで巻き添えにして、誠にすまない」

「何をおっしゃいますか。決して旦那様のせいではございません。むろん、お嬢様のせいでも……。我ら従者一同、誰一人として、お恨み申し上げる者等ございません」


 アティアは、外の景色を眺めながら、二人とは違う感情を滲ませていた。

 一つは生まれて以来、来る日も来る日も聖女になるために、休みなどなかった日々。

 一つはそれを解放されて、この三日初めて自由というものを満喫している楽しさ。

 最後の一つは、自分がこの国を去ることによって起こるだろう不幸だ。


 馬車は、草原の一本道を進んでいく。

 近くの森に目を向ければ、この国ではあり得ない光景が見えている。

 アティアが三日祈らなかっただけで、既に影響が出始めていた。

 アティアは、それを見て咄嗟に口を開いた。


「お父様。やはり、わたくしはこの国を出ては……」

「殿下の……新国王陛下の命令だ。あのお方は、決して考えを曲げないだろう。もし、残ろうとすれば何をなさるかわからん。だから、お前も特に抵抗もせずに受け入れたんだろう?」

「そうですけれど……このままではっ!」


 公爵は目を閉じて腕を組んだ。

 執事は何の話をしているのか分からないと言った風に、両者を見やっている。


「崩御なさった前王陛下は、妻を早くに亡くし、さらに相次いでお子を亡くされた。プププートでん……現国王陛下は武芸に秀でていたが、一国を預けるに足るお方とはお思いではなかったのかもしれない。だから、誓約の儀をなされてなかったのだろう……まだ、幼さ残る少年だが、第四王子がおられる……さすがに、前王陛下も第四王子では歳の差もあることで、お前と婚約させるには躊躇いがあったのかもしれん。今はだが……」

「それはつまり……?」

「お前を何れは第四王子の妻にとお考えであったのかもしれん、という事だ。崩御された今となっては、わからないがね」


 二人は重々しく沈黙した。

 その空気を察して、執事も声を発しない。

 車内の淀みなど、知りもしない馬たちは、朗らかな陽気の中、次へ次へと駆けて行った――。

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