第31話 所詮は人間だけれども、 (2)
「へ……?」
サクヤは何も状況がわかっていないようで混乱していた。
「これが死神……地上に降りた神を殺す役目……。だから、多分……カインとオーヴェルを殺しに来た……はず」
頭で思い浮かべた言葉を必死にまとめて喉から絞り出すように声を出す。こうやって誰かに自分の考えや知識を伝えることが苦手なのだ。正直さを親に殺されたのだ。
「ソーだよ! 神だけを殺しに来たから、君たちは敵じゃなイです!」
「んなこと言ったって……」
サクヤは納得できていないようだが、一応と言わんばかりに攻撃態勢に入る。アクレイも立ち上がって警戒する。私は特に動くことは無い。何となく、動きたくなかった。
「つまり……君はアレを殺すためだけに来たのかい?」
「ソ! ソーだよ! 邪魔するならぁ……君たちごと殺すノ!」
敵意は十分にある。相手が手を出してきたなら対応するしかない。
そんなことを考えているうちに死神が先に行動した。何もなかった場所から突然人と同じくらいの大きさの鎌を出現させる。それを器用にくるくると振り回して私たちを威嚇する。
「んデ? 素直に殺させてくれるノ?」
死神の問いかけにサクヤがすぐさま身を乗り出して答えた。
「んなことさせるわけねーじゃん」
真顔で強い視線でその言葉を放つ。その覚悟とやる気、あと自信はどこから来るのだろうか。今までサクヤが戦っているところを見たことが無い。それ故に実力はわからない、けれど異世界から来たような人間に何か特殊な力があるとは考えづらい。
けれど、もし戦える力があるのならば、私はできるだけ力を使うことなくこの事件を終わらせる。
「あー……賢き者はここにはいなイようだ。みーんな、血迷っちゃったんデすねー」
この死神の口調は安定しない。一応敬語を使おうとするが、それでも狂気が滲み出てすぐに崩れる。敬意など、一つまみも無いだろう。第一、神が人間に敬意を持つことなどありえないのだ。
「あんまり使いたくなかったけど……! こーゆーときはしゃあねぇっ!」
「「⁉」」
サクヤがそんなことを言うのだ。私とアクレイは驚いてしまって、ついその場で固まってしまった。これから何が起こるのか、本当に彼は力を持っていたのか、様々な考えと未来が過る。
すぅぅー……っとサクヤが深呼吸をしている間に、死神は走り出して一直線にこちらに向かってきた。人間離れしたその速度に思わず私も立ち上がって身構える。もしも何かあった時のために、準備だけはしておくのだ。
『術式:柳葉式銃弾』
何を言っているのか全く分からない。所々わかる単語はあるものの、異世界の単語自体は聞き覚えが無いため何も理解できない。起きた現状をただただ情報として処理するしかなかった。
どこからともなく飛んできた緑色の光。サクヤの周囲で二周半した後、彼の手に収まる。
普段見せないような鋭い視線で相手を怯ませる。あんな顔で睨まれたらたまったもんじゃないだろう。私だって怖いくらいだ。私はこういう目を何度か見たことがある。あれはきっと、全力の殺意だ。先ほどの発言とテンションからは考えられない、その差にアクレイも驚いていた。
緑色の光が収まったころにサクヤの手元を見ると、そこには独特の光沢のある鈍い黒色の物体が握られていた。あれは……一体? 角ばっていて、金属が使用されているように見える。それ以上に、これは一体何に使うものだろう。
サクヤがそれを構える。謎の物体は謎のオーラを帯びている。謎が謎を呼んでもう何もわからない。魔法とは違う、アクレイの種族特有の術に近いものを感じる。
謎の物体自体に、ゆっくりと目を傷めそうなくらいに鋭い黄緑色のラインが入っていく。
「結構痛いで。なんてったって、この世界には存在せぇへんねんから」
バンッッッ……。その一瞬で起きた出来事を私は理解できなかったし、目でも捉えることができなかった。ただ、私の目の前で起きた現実は大きな音が鳴った後に、死神が突然血しぶきを出して倒れたのだ。
「……神にも効くんやなぁこれ。えーめっちゃ意外」
意外、と言ってる癖に満更でもなさそうな表情でニヤついている。鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしているであろう私たちを置いてけぼりに、彼は一人の世界に入り込む。その前にアクレイが声をかけた。
「何、それ? 見たところ危ない武器に見えるけど」
確実に動揺していたのに、それを一切見せることなく問いかける。少しだけその姿に感心してしまった。
「え? 拳銃じゃないの?」
「ケンジュウ……」
私は静かに言葉を繰り返して呟いた。それがその謎の物体の名前。殺人兵器の名前。
「こう……金属でできた銃弾を詰めて、セットして、ここの引き金を引いたらその銃弾が勢いよく発射されて、相手を貫くっていうやつ。多分こっちの世界にはないよな?」
「そんなもの……ない」
魔法のように見えたけど、説明に魔法は関わっていなかった。サクヤの説明の仕方が悪いのだろうか。それとも、本当にその言葉の通りで、一瞬で人を殺す道具なのだろうか。魔法の適正関係なく……?
「一応これ単体で、魔法も何も関係なく人を殺せるんだけど。こっちの世界じゃ魔法使った方が楽だし、使いやすいし、カッコイイから」
何の才能も無く、戦うことに関しては完全に無知だと思っていた。そう考えていた私が馬鹿だったかもしれない。いや、馬鹿では無いのだけれど、見くびっていた。サクヤがこんな恐ろしい武器を扱えるなんて思ってもみなかった。
「ちなみに今のを説明するとー、行方不明になってた拳銃を呼び戻して、自動装填して、そのままバンッッッ! って発砲した。柳葉式銃弾は結構繊細で、細くて小さい銃弾なんよ。何でか知らんけどこの銃、どんなサイズの銃弾でも適応してちょーどええ感じにサイズ合わせやってくれるから、基本的にどんな銃弾でも使えんねん。だからこういう変なのと掛け合わした攻撃方法とかも実行できんねん」
長い説明を休みなく語ってくれたサクヤには悪いが、頭の中で理屈を再生することはできないし、途中からなまりが強くなってよくわからない状態だった。
とりあえず、サイズが違うと普通は使用できないが、魔法との掛け合わせで使用できる……らしい。大きさを変えられる魔法ならいくつか候補があるが、それらをこんな小さい道具に込めているのか……。
異世界と異世界を掛け合わせると、こんなものが生まれるのか。まぁそもそも、サクヤの存在がバグだし、今に始まったことでは無いのだけれど。
「まぁ……とても強い武器を持ってたってことだよね?」
最後の確認とでも言うように少し大きめの声で言った。
「そうそう、めっちゃ強い武器やで」
戦い終わって一件落着。一見そんな風に見えるが私はそうは思わない。グリフルがまたも私の前にやってきて忠告をするのだ。どうしてこの大精霊たちは、こんなにも私を気に書けるのだ? 正直面倒にも感じるが……今のところ利益しかないのでそのままにしている。
「おい、ロミィ」
何? と声に出すことはできないので視線でアピールする。これで通じればいいのだが。
「あんな一撃で死神がやられたと思うか?」
思う訳無いじゃない、あんなもので倒れたとなれば神の名に傷がつく。流石にこれは目配せだけでは通じないような気がする。けれど最低限の意思だけでも伝わるように、思わない、と器用に操り雰囲気だけでも汲み取ってもらおうとする。
「神の共有体がそろそろ目覚める。恐らく中身は神じゃない方だ。あと、死神は怒りに燃えているぞ。反撃に備えろ」
カインが目覚めるのは少しだけ意外だった。それでも十分可能性としてはあったのだが、死神が来ても目覚める様子が無いのだから、今回は目覚めないものだと思っていた。
グリフルに戦闘の援助をお願いしたい。だから私は小さな声で、こういった。
「グリフル、助けてとは言わない。援助して」
「ん? お前何言ってるの?」
アクレイが私の独り言に反応する。
「……幻覚とお話ししていたの。大事な大事な幻覚とね」
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