第4話 デートは命がけ?
デート前日のことだった。
俺は今までデートというデートをしたことがなかった。もちろん恋愛というものに興味が無かった訳でもないが、今までそういったことに縁が無かった。
正直、デートという単語に耐性がなく、気持ちが舞い上がっていた。
男とは単純なもので、そういったひとつの単語がまるで魔法の言葉のように急に彼女のことを意識するようになっていた。
そんな浮わついた気持ちのまま、勝手に自分が彼女にとって理想の男になっていたのだと錯覚していたのだ。
本来の目的の気持ちとは、違う気持ちが芽生え始めかけていた。
そしてふと思った
デートって何をすればいいんだ?
それにデートの正解とはなんなのだ?
俺は、急に不安になってきていた。
別に付き合っている訳でもなく、一世一代の気持ちでデートを申し込んだ訳でもないのだが。
男としてのプライド。
いや、ただ単にカッコつけたいよこしまな気持ちが勝手にハードルを上げていた。
大袈裟にいうなら、戦場を命懸けで戦う英雄かのごとく。
おすすめデートスポット特集
今さらスマホで調べ初めてみるが、どれも無難でつまらないものに見えてしまう。
それにデートの約束をしたときの華子との会話を思いだし、俺を悩ませていた。
「デートってどこか行きたいところでもあるのか?」
「行きたいところはー、特にないし、それはほんとにイッチーに任せるよ」
「じゃあやりたいことは?」
「美味しいもの食べる!」
「そっか、ほかには?」
「あとはー、嫌いなものを好きになれるような、、、そんな感じ!」
「??あぁ、そっか」
最後の言葉をその時は深く考えなかったが、あれはどういう意味だったのだろう。
そんなことを考えていると時間だけが過ぎ、大したプランを練れずにいた。
世の中にいるカップル達は一体どうやってデートをしているんだ。いや、世の男共はどうやって彼女を満足させているのだろう。
結局これだという答えはでずに、当日の朝をむかえてしまうのだった。
待ち合わせは、バイト先の最寄り駅。華子と初めて話したあの場所だ。
最終的に俺が頼ったのは、おすすめデートスポット特集だった。幸いにも最寄り駅付近には、多くの商業施設があり、少し電車を乗れば動物園に水族館と定番スポットには行けるのだ。
ほとんど寝れなかった俺は、特に行き先を決めずに当日に決めようという結論に達していた。
昼前の11時に約束をしていたのだが、俺は1時間前に着いていた。
華子がギターを弾いていた場所には、二人組の男女が路上ライブをしている。女がボーカルで男が電子ピアノだ。
華子を待っている間の時間潰しに女が歌うラブソングをゆめうつつ聴いていた。俺は華子の歌うラブソングも聴いてみたいなと思った。
今まで音楽に興味は無かったが、名も知らない二人の音や歌詞が耳に入り頭の中で反芻している。
世の中の不条理や、励ましの言葉、誰かを想って作ったであろう曲。
ひととおり曲が終わった頃には、約束の時間になっていた。
「お待たせ! 待った?」
「あぁ、ちょっと早く着いただけだからそんなに待ってないよ」
「ふーん、それなら良かった 今日はどこ行く?」
「あー、それなんだけど、、、」
俺は色々な選択肢を提案した。スマホで確認していたありきたりなものを。
その中から華子は動物園を選んだ。俺は一先ずほっとした。それと同時に少し物足りなさも感じていた。
動物園に着くと、華子は色々な動物を見るたび目を輝かせていた。そんな華子につられて俺もまじまじと動物を観察した。
「動物園とか小さい頃に来たきりだけど、案外面白いな」
俺は本当にそう思った。動物の習性などは全然知らないが、きっとひとつひとつの行動に意味があるのだろう。
「イッチーがもしあのライオンだったらどう思う?」
華子は檻の中にいるライオンを指差しながら問いかけてきた。
「えーと、まぁ楽でいいなって思ってるかなー」
「ふーん、じゃあライオンの気持ちになって考えたら?」
「ライオンの気持ちかー、まぁ野生の本能ってのがあるならやっぱサバンナとかで自由に狩りとかしたいんじゃないかなー」
「じゃあなんでライオンは脱走しないと思う?」
「 そりゃ、檻に囲まれてるし、飼育員に餌とか貰って不自由なく暮らせてるから、まぁそれに慣れたんじゃないか 」
「そっかー、そうかもね……」
ライオンの檻に近づいていく華子は話を続けた。
「あたしもそう思う、けど、ある時ライオンはふと思うの 自分はなぜここにいるのだろう ほんとにここにいていいのかな 今のすがたはほんとの自分なのかなって」
「なんか哲学的な話だな まぁ言ってしまえば動物園なんて人間のエゴなんだからな 」
「それになぜか自分より弱いものが、自分を世話している気になっている いつでも狩れるのにって」
悲しそうな表情をしているように見えたが、その言葉には力強さみたいなものを感じた。
「まぁ、それも全部俺ら人間が勝手に思ってることだろ きっとどんなに偉い動物学者でもほんとのほんとのことはわからないよ」
「まっ、そうだよね」
一瞬重たくなった空気を払うかのように、華子は笑顔で答えた。
その後、俺達は動物園を満喫し夜は何を食べようかと話しながら、繁華街へと向かっていた。
焼き肉を食べようとなり、ここでもスマホで調べたおすすめの店へと足を進めていく。
「きゃあーーー」
「やばいぞ!」
「逃げろ 逃げろ」
なにやら騒がしい声が聞こえる。
「刃物で切りつけられるぞ!」
俺達を追い越していった男がそう叫びながら走っていった。
騒がしい声のほうに視線を向けると、ざわついている人々の中に刃物らしきものを持っている男がこっちを見ていた。
目があった気がすると、その男がこっちに向かってきた。
やばいやばいやばいやばい
俺はとっさに華子の手を掴み逃げようと、ぐいっと引っ張ったが、華子は動かなかった。
「おい!やばそうだから、走るぞ!」
俺はそう言ってもう一度腕を引っ張ろうとすると、華子は俺の腕を振り払い、男のほうへと歩きだした。
俺は訳がわからなかったが、絶望的な状況だということはわかっていた。
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