第3話 華子の気持ちと俺の思い
この日は華子と初めて酒を飲んだ。ちなみに俺と華子は誕生日が全く同じで、最近二十歳になったばかりだ。華子は普通にビールを飲んでいるが、俺は一口飲んで諦めた。酒は苦手だ。
いつもの何気無い会話をしながら、華子はどんどん酒を飲んでいく。顔が紅潮していき口数も増えていった。
ドンっとジョッキを置くと、何かをリセットしたかのように華子がふぅーと息を吐いた。
「そんなに飲めるんだな てか飲み過ぎなんじゃねぇか?」
俺はウーロン茶を飲みながら、華子を心配そうにみた。
「あたしが嫌いなものって何かわかる?」
華子の嫌いなもの?唐突な質問に少し考えたがずばり答えを当てられるようなことでは無いので、テキトーに答えた。
「嫌いなものねー パクチーとか?」
それは俺が嫌いなものだ。
「それはギリ嫌い」
割と当たっていたが、ここまでならいつもの何気無い会話の一部だ。だが、そこからの華子のターンはいつもと違い、彼女をもっと深く知るきっかけとなった。
「あたしは人より幸せだと思っていたの」
そう切り出すと話続けた。
「小さい頃から両親から愛され、仲良しの友達と毎日楽しく遊んで、ある程度のことはまわりの子より上手くできていたと思う」
過去の話はあまり聞いたことが無かったが、俺の記憶では両親から愛されということが引っ掛かった。確か家庭環境が上手くいってなかったような。
「 で、あるときふと思っちゃったんだ、この幸せなあたしはいつまで続くのかなって 」
空のジョッキに落とした視線が冷たく見えた。
「それで、あたしは、、、って何言ってんだろね! 少し酔ってきちゃったかも」
空のジョッキを手に取りグイッと飲む仕草をした。
俺はそれにツッコミを入れることは無かった。言いかけた言葉の先がやけに真に迫った感覚を受けて、俺は黙って華子を見つめていた。
「って、空じゃん! てか真剣な顔で見すぎでしょ」
明るいトーンでそう言った。
「いや、、あぁ、、俺もちょっと酔ってきたかも」
「いや、ほぼウーロン茶でしょ」
「ははっ、そうだった」
またいつものノリに戻り、さっきの話が気になったが話題を変えようと俺から歌について聞いた。もともとはそのことを話そうと思っていたからだ。
「てか、歌凄かったな 上手く言えないけどほんとに
良かったよ 前に話した企画で歌えないか?」
自分の語彙力と表現力の低さで、あの感動を伝えらたかはわからないが、華子は素直に喜んでくれた。
「ほんとー?! ありがとう
でもあたしの歌じゃあの企画には合わないんじゃないかなって、、ジャンルが違わない」
「いや、俺は逆にギャップがあっていいと思う!
あっ、でも俺は知らなかったんだけど、華子達のバンドはめちゃくちゃ有名だったんだな 無名の俺なんかの企画にはでれないか、、、」
俺は話ながら実はめちゃくちゃなオファーをしているのではと感じ始めていた。
「そんなこと全然無いんだけど、、、みんなも全然出てくれると思うけど」
華子の歯切れの悪さがなんなのかはこの時わからなかったが、ここが俺にとっての大きなターニングポイントになると思っていた。
「ギャラか?いちお予算は決まってるけど、できるだけがんばるよ」
俺は今の全財産をかけてもいいと思っていた。それにいざとなれば金の問題はすぐに解決できる。
「いやいや、ギャラとかはいらないし あたし達プロじゃないし それにみんな本業あるからお金の為にやってわけじゃないんだ」
「そうか じゃあ直球で聞くが何が引っ掛かってるんだ?単純に俺の企画がつまらないからか?」
この時の俺は不思議と強気に攻めていた。
「イッチーの企画は良いと思うよ キラキラして楽しそう うーん じゃあ来週デートしよう」
意外な答えが返ってきた。
「えっ?デート?そしたら出てくれるのか?」
「そう! そしたらそのときにはっきり答えをだすよ」
なぜかそういう流れになり俺はデートプランを練ることになったのだった。このときの俺はデートというものを舐めていた。
一週間後
俺は絶望的な状況に追い込まれていた。
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