第6話ニートと魔人の子2


 場所を少し移動して、開けた場所で話し合うことにした。

 寝太郎は早速尋ねる。

「名前は?」

 魔人の子は、渋い顔でもって、寝太郎を見てるだけで、答えない。

『名前は?』

 魔人の子の上から、コロナが繰り返し訪ねて来たので、彼女は思わず、自分の衣服を噛まれないように構えた。

「……ミルヒー」

 時間がかかりそうだな、と寝太郎が思っていたところで、彼女は答えてくれた。

 とても警戒心が強そうなので、慎重に質問を決める。

「お前は何しに来た?」と言うと、先程と同じ展開になりそうである。

 コロナで脅すにしても、その内、抵抗を強めてしまったら、困るのは寝太郎の方であった。

 何せミルヒーには殺意があっても、寝太郎には殺意など微塵もない。

 寝太郎側の弱みを理解された瞬間、ミルヒーから情報を漏らすことは無くなるだろう。

(人と話すの面倒くせぇな)

 まともに女の子と喋ったのなんて、寝太郎が小学生ぐらいの純真なとき以来だけだ。

 恋愛シミュレーションゲームには開発者が用意してくれたセリフが仕込まれているから、容易に交流ができた。

 コロナはその点、裏表が無く、寝太郎にとっては気安い存在で助かっている。

 考えても正解など得られるはずもなく、結論を先延ばしにすることにした。

「飯にしよう」

 食べ物としては、木の実や果物、例のモチモチした草を揃えた。

「何これ」

 ミルヒーは、草を手に取って、不満そうに言った。 

 実は、これらの食事を見つけるにあたって、寝太郎は能力に目覚めていた。

 彼も理由を知らないが、内部に眠るエネルギーを、視認できるようになっていたのだ。

「食えばわかる。うまいぞ」

 ミルヒーは、掴んでいる草をぐっと強く掴み震えた。

「なめるな!」 

 彼女は、草を捨てると、右手を振り払うようにした。

 迂闊にも寝太郎は確認していなかったが、腕輪が嵌められている。

 黄金の装飾に、赤い石が入り込んだ、精巧な作り。

 そして、赤い石が光輝いたかと思うと、彼女の右手より、急に、火球が出現した。

 ミルヒーの腕に、血管のごとく、光の模様が浮かび上がっている。

(お、おお。かっけぇ) 

 寝太郎は、間近で見る魔法に思わず感動してしまった。

 しかしこのままでは火傷で済むわけが――

『あむっ』 

 コロナが、口を開き、火球を食べた。

「え?」

『ん?』

 寝太郎より先に、意味がわからないといった顔で、ミルヒーが驚く。

 火を食べたコロナは、なぜか、もっとよくわからない、といった顔をしている。

 が、すぐに彼女は力を振り絞った。

「はああ!!」

 火球は再び登場した。

 それをコロナが食べる。

「え、なんで? なんで食べるの?」

 ミルヒーは、信じられない、と思っているのか、恐怖で顔面が青ざめている。 

 もうよせばいいのに、ミルヒーは、多少コロナから離れてから、力のあらん限り叫んだ。

「ふぁあああああ!!」

 と、絶叫にも近い声で力を貯め込んでいた彼女であったが、腕輪が突如として真っ二つに割れ、地面に落ちた。

 腕輪は、限度に達すると壊れる仕組みがあるのだろう、その合理的な仕組に寝太郎は感心した。

 コロナは更に追い打つように述べる。

『終わりか? もっとくれ』

(いや、飯じゃないだろ今のは)

 寝太郎も、コロナがただの獣ではないことは理解していたが、さすがに奇妙過ぎだ。

 おそらくコロナ本人も、自分のおかしさを自覚していない。

「そ、そんな」

 ミルヒーは、がくっとその場に腰を落とす。

 渾身の隠し玉が、これでもかと言うぐらい、粉々にされたのだから当然である。 

 寝太郎は、何とかならないものかと思案してから喋った。

「もういいだろ? 争いあいに意味なんて無い。俺は平和主義者なんだ。平和に行こう」

「いいわけないでしょ! 暗殺しに来たのよ?」

「だってお前、出られないのに、どうやって報告するつもりだったんだ?」

「ふーんだ。あんたに関係ないし」

 とにかく、寝太郎とは、相容れないとしているようで、取り付く島も無い。

 寝太郎は諦めずに話す。

「よくわからないが、魔王とかによく確認したのか?」

 ミルヒーは、ぐぬぬ、と奥歯を噛み締めていた。

 否定しないということは、魔王は存在するようである。

 取っ掛かりとしては、良さそうなので、寝太郎は更に追求してみた。

「独断で先行したら良くないぞ。ほうれんそうを徹底しよう。コンプラ違反でもしたら大変だろ?」

「わけのわからないこと言うな! もう死ね! ばーか!!」

 こう言ってから、踵を返し、森の奥へと駆けていった。

 まさに、じゃじゃ馬娘という言葉が似合う子である。 

『なんであいつプリプリしてるんだ?』

「多分、あの日だろう」なんて言うのが、おっさん臭くて、やめた。

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