第6話 私、ヤンデレだから一日監禁するね(2)

「ヤン、デレ……」


 【ヤンデレ】

 病んでいるデレの略。

 相手への好意が強く高まり過ぎた結果、病的に一途となり、さらには関係が壊れることを恐れるあまり病んだような精神状態になってしまうこと。もしくはそうした精神状態を指す。


 小説や漫画でしかそんなのないと思っていたが、優菜が自分からヤンデレと言うとは。


 要約するに、俺のことが好きすぎるって事だよな? あれ? 嬉しいぞ?


「聞いてる?」


「ヤンデレだから監禁するって事だろ。けど、学校はどうすんの?」


 そう、今日は平日。学校に行かなければいけない。


「そんなの行かないに決まってるじゃない。学校には2人して熱が出たから休みむすって連絡しておいたから」


「仕事早いな……。今日休まなければ皆勤賞だろ。こんな事のために無駄にするのは勿体ないなくない?」


「こんな事じゃない。涼夜と一日中過ごせる大切な時間。……ほんとは毎日休みたいくらいよ」


 ……うーん、結構なヤンデレなのか?


 嫉妬心を煽らないようになるべく気をつけたつもりだったが、どうやらダメだったようだ。


「それに涼夜が他の人と話してると胸がザワザワするの。『他の女の子と話さないで』『私以外にその笑顔を見せないで』『私だけを見て』そんな感情ばかり生まれる。ごめんね、こんな面倒臭い彼女で……」


 ぽつぽつと本音を漏らしてくれる優菜。

 

「だから監禁すれば私のことしか考えられないって……ヤンデレになればいいっての」


「……はい?」


 なんか一気に話が飛んだ?

 書いてあったということは調べたってこと? モヤモヤの解決策としてヤンデレを演じてるってこと?


「心配しないでも、こういう事を無断でするのも悪いと思って、涼夜のご両親にはちゃんと許可を取ったから」


「いい子ちゃんかよ!」


 うちの両親は優菜に甘すぎだろ。

 断ってもどうせ続けるだろうしここは腹を括るしかないな。

 

「はいはい。監禁されますよ」


 諦めたように溜息をわざとらしく吐いて、優菜の頭をぐりぐりと撫でまわす。


 嬉しそうに目をほそめる優菜の愛らしさに、これから何をされようと平気。そんな覚悟も芽生えた。


 さて、これから何をされる……あっ。


「な、なぁ優菜……」


「なに?」


「……お花を摘みに行きたい」


 朝起きたばかりとあって、尿意が。


 身体は動かないし、監禁するってことはペットボトルとかでしろとか言われるのかな……。


「……」


 優菜は数秒黙った後、ポケットから鍵らしきものを取り出し、れカチャカチャと手足の拘束を解いてくれた。


 あれ……?


「え?」


「え?」


 お互い疑問系になる。


「どうしたのよ? トイレに行きたいならさっさと行きなさい」


「あ、ああ……」


 監禁ってこんなもんだっけと首を傾げながらトイレを済ませた後、再び部屋に戻る。


「ただいま」


「ん、おかえり」


 手錠を付けてもらおうと優菜の前に両手を出したが、


「あ、手錠? いいわよ、どうせ今から付けないし」


「え?」


 また疑問が増える俺に対して優菜は、テーブルに数学の教科書とノート2人分を置いた。


「今日は学校を休むんだから、その分、しっかり予習しないと」


「え、えー……」


 てっきり遊ぶかと思った。


 普通の授業と変わらない50分勉強、10分休憩を4セット同じ、お昼を迎えたのだった。


「お待たせ」


 キッチンで料理を作り終わった優菜がまた部屋に戻ってきた。


 テーブルに2人分の食事が置かれる。

 美味しそうなオムライスだ。


「いただきます」


 手錠は未だに外れたまま。

 なんか、逆に自分から付けて貰いたくなるな。


 そんな事を思いながらオムライスを一口。 


「うん、うまい!」


 硬めに焼いた卵と中のチキンライスが合っていて美味しい。


「ありがとう。なんかヤンデレについて調べたら髪の毛とか血とか唾液とか入れるといいとか書いてあったけど」


「ぶほっ!?」


「ちょっ、汚い……」


 優菜の爆弾発言に思わず吹いてしまった。

 

 目の前のオムライスと優菜を交互に見る。


「い、入れたんですか……?」


「い、入れるわけないじゃない! 髪の毛とか血とか唾液とか……そんなの料理に入れるとか不衛生だし」


 ごもっとも。

 優菜に常識があって良かった。


「あっ、でも入れたものもある」


「え、なに入れたの?」


「……愛情」


「……」


 え、このヤンデレ可愛すぎない?


「も、もう! やっぱり食事中は手錠をかけるっ!」


 俺が無反応だったのがいけなかったのか、手錠をかけられた。


「ここからは私があーんして食べさせるから。ほら、あーん!」


「あーん」


 うん、美味い。


 監禁と言うよりは介護に近い。

 おじいちゃんの世話をする娘みたいな。


 ただまぁいつもと違う点を挙げるとすれば……。


「?」


 今日は長い時間、優菜が間近にいる。

 その分、優菜の容姿をじっくり見ることができた。


 むにっとした頬、ぷるぷると揺れる唇、むちむちの太もも。どこもかしこもいい匂いがして堪らなく魅力的で……。


「涼夜?」


「なんでもないぞ。ほら、あーんを続けて」


 こんなに優菜といれるなら……監禁生活も悪くないな。





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