第5話 私、ヤンデレだから一日監禁するね(1)

「目玉焼きには醤油でしょ!」


「いいや。塩胡椒だ」


 目玉焼きには何をかけるか論争をしながら登校する俺と優菜。

 

 あれからすっかり優菜は無理に自分を抑え込まずに、時にはツンデレ、時には甘々と自由に自分を出すようになった。

  

 やっぱりそのままの優菜が1番可愛いのよな。


 口論しつつ、恋人繋ぎは離さない俺たち。


 学校に近づくにつれ、周りの生徒の視線を集める。


「あれ? 桐谷さん元に戻った?」

「マジか。俺はあの少し大人しめな感じが好きだったんだけどなぁ〜」


 おいこら、男ども。人の彼女を自分の理想と比較するな。


 一方、女子はというと。


「桐谷さんと永草くん、今日もラブラブで羨ましい〜」

「ああやって、本音で語り合えるカップって羨ましいよね」


 何やら羨望の眼差しで見られている。

 賛否両論とまぁ付き合う前と変わらない。


 そんなことを考えていると、手に力が入った。


「ちょっと、どこ見てんの?」


「ああ悪い。優菜のことをいやらしい目で見ている男どもを睨んでた。たくっ……アイツらふざけやがって……」


「〜〜〜っ。もう、ばかっ」


 諸君、分かるかい?

 ツンデレはデレる時が堪らなく可愛いんだ。


 恥ずかしがりながらも嬉しそうにニヤニヤする優菜の姿を見て幸せをかみ締める。


 この圧倒的なリア充感。


 ああ、なんて清々しい。


 お互いに好き合っている恋人と一緒に居られるって本当に幸せなことなんだなぁ……。



◆◇


(優菜side)


 涼夜と恋人になって一週間ぐらいが経っただろう。


 毎日が幸せだ。

 

 ただ最近、気になる事がある。

 

(シーン1:クラスメイト)


「永草くん、ちょっと手伝ってもらっていいかな?」


「いいよ、って、その荷物を資料室に一緒に運んで欲しいんだな」


「そうなの。ごめんね、1番話しかけやすい男子って考えたら真っ先に永草くんが思いついて……」


「いいよいいよ。困ってる時はどんどん頼ってもらっていいから」


「むぅ……」


(シーン2:体育の授業)


 サッカーの授業。

 味方からパスを貰った涼夜がそのままシュート。ボールはネットを揺らした。


「「きゃぁぁーーーっ!!」」


 そして黄色い歓声が上がる。


「永草くん、運動部入ってないのにあんなに運動神経いいとかやばすぎっ!」


「カッコいいよね〜」


「むぅ……」


(シーン3:後輩)


「涼夜せんぱぁ〜い」


「お、おい坂比奈っ。くっつくな!」


「えー、今までだってそうだったじゃないですかぁ〜」


「俺が今までとは違う状況なんだ。そうやって密着するのは彼女の優菜だけで……ひっ」


「……」


 ………。




「……はぁ、なんであんなにモテるのかしら」


 改めて、涼夜の人気さを思い知る。

  

 以前の私は、涼夜が他の女と話したり、デレデレしたり、他人のことを手伝っていると、それだけで烈火のごとく怒り狂い、口調が厳しめになっていた。


 けれど、涼夜の気持ちを考えると、頻繁に嫉妬していたら、疲労がどっと押し寄せてくるだろう。

 

 たまに我慢しているのを見透かされて、「不満があったら言っていいよ」と言って頭を撫でてくれる。


 優しくされるたびにまた1つワガママを抱いてしまう。

 

【他の女の子と話さないで】

【私以外にその笑顔を見せないで】

【私だけを見て】


 1番だけじゃ物足りない。

 全部……涼夜の全部を独占したい。


 ああ、これは……恋に貪欲になるこの感情は——




◆◇


「ふぅ、ご馳走さん!」


「お粗末様でした」


 おじさんは出張、おばさんはウチの母さんと女子会をすると外出しているため、俺は優菜の家で夕食をご馳走になっていた。


「はい、食後のお茶」


「サンキュー。と、なんか不思議な香りだな」


「ハーブティーだからね」


 中には薄茶色の香り豊かなお茶が入っている。


「たまには飲んでみるのもいいわよ。疲労回復効果もあるし」


 疲労回復効果という言葉に惹かれ、一口。

 少しの苦味と、新鮮な香りがいっぱいに広がる。


「うめぇ……」


 ほっと一息つきながら言う。


「ふふっ、良かったぁ」


 ゴクゴクと飲み進め、あっという間に飲み切った。


「……全部のんだね」

  

 自分にしか聞こえないような声で呟く優菜。


 それから30分から1時間ほど優菜と雑談をした後だった。


「ふわぁ……なんか急に眠くなってきたな」

 

 猛烈な睡魔に襲われ、何度かの欠伸。

 時刻は9時を回ったくらい。

 普段ならこの時間帯は眠くないのだが、今日は気を抜くとすぐにでも眠ってしまいそうだった。

  

「悪い優菜。なんか急に眠くなってきて……。ちょっと横になるから、1時間くらいしたら起こしてくれない?」


「いいわよ。大丈夫?」


「眠いだけだから大丈夫」

 

 話しながらソファに横になる。

  

「じゃあごめん、1時間後に……」

 

 瞬間、より一層睡魔が強くなり、ゆっくりとまぶたを閉じる。

  

「……おやすみ、涼夜」

  

 そう言った優菜の瞳からハイライトが失われていたのは……気のせいだろう。

 

 

 …………。


 それからどのくらい眠ったのだろう。


「う、うん……?」

 

 目を覚ますと天井。

 ここは寝室なのだろう。手探りで触ると、ふかふか。寝ているのはベッドだ。


 身体を起こそうとした時だった。


 ジャラリ


「え?」


 金属同士が擦れ合う音。 

 恐る恐る見ると、手足が手錠のようなものでベッドに拘束されていた。身体を動かそうにも全く動かせない状態。


「おはよう涼夜」


「お、おはよう優菜……」


 いつもの変わらない笑顔。

 しかしながら、動揺している俺が何を聞こうとしているかは分かっているのだろう。


 優菜は光を灯さない瞳で言った。


「私、だから一日監禁するね」






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