第2話 好きの気持ち

 眠い日本史の授業を乗り越えお昼。

 友達同士で机をくっつけたり、購買部に行ったりする中。


『今日もお弁当作ったんだから……か、感謝しなさいっ!』


 いつもの優菜ならこうやって上から目線で誘うのだが……。


「涼夜、お弁当食べよう」


「おう」


 今日は口調が穏やかだ。


「今日も作ってくれてありがとうな」


 髪が崩れないように撫でると、嬉しそうに頬を赤らめながらコクコク頷く。


「素直になった桐谷さん可愛すぎるだろっ」

「つか、アレで付き合ってないって……」


 クラスの男子からの視線が痛い。

 いつもはツン成分強めになる優菜。その厳しい口調は好みが分かれる。


 だが、今はどうだ?

 素直になった優菜の姿を見た男子は彼女にメロメロ。ギャップ萌え間違いなし。


 注目を浴びたことが恥ずかしかったのか、優菜は俺の袖を控えめに握り、小声で。


「……2人っきりがいい」


「っ……」


 ツンデレのツンが消滅してデレデレ。

 今日はいつにもまして甘々だ。普段も可愛いが今日は一段と可愛い。

 もはや、可愛いという言葉しか出てこない。


「チッ……」

「かぁ……ペッ!!」


 舌打ちなどの不機嫌な声が聞こえる。

 教室の前の方からは、「シャッ、シャッ」と何かを削る音が耳に入り、もう怖すぎてそっちを向けない。


「よし、逃げよう!」


「え、あっ……」


 俺は刺される前に優菜の手を引き、急いで教室を去った。




 静かな場所を求めた結果、屋上にたどり着いた。


 今日は天気が良く、身体に当たる日差しもいい具合。


「うまっ」

 

 そんな青空の下で食べる弁当は格別。


「いつもありがとな。毎日、弁当作るの大変だろ」


「べ、別に私が勝手に作ってるからいい。それにに美味しいって言われるのが何よりの活力だから」


「そう言ってもらえると嬉しい——え、好きな人?」


 俺の発言で優菜は自分が何を言ったか理解し、口を押さえたが、すぐに顔をこちらに向け。


「その……なんか言ってよ……」


「えーと……俺のこと好きだったのか……?」

 

「……そうじゃなとあんなにお世話したりしないわよ」


 顔を真っ赤にし、困ったように視線を外す優菜。

 しかし俺の反応が気になるのか、眉尻を下げながらチラッと見てきたりもする。


 確かに毎日、起こしてもらって、お弁当を作ってもらって、たまに勉強を見てくれる。

 幼馴染という垣根を越えている。

 

「それとも返事は『今更、好きだと言われても、もう遅い!』なの……?」


 恥ずかしい様子から一変、目尻にうっすら涙を溜め、不安そうな様子になった。


 その台詞は俺が昨日、教室で言った言葉……あっ。


 まさか昨日の放課後、優菜は教室付近にいて、俺の台詞を勘違いして、それで今日はこんなに甘々に……。


 …………。


 クッソ、なんだこの殺人的な可愛さは……。


 辛抱たまらなくなった俺は、無言のまま優菜の口唇に自分のモノを重ねた。


「んっ……」


 甘い声が漏れる。

 優菜は抵抗しなかった。

 それどころか2度、3度と口唇を重ねてやると、顎を上げて自分から口唇を押しつけてくる。


「ん……返事、聞いてない」


「好きに決まってんだろ。ツンデレの優菜も今の甘々な優菜も好きに決まってる」

 

 俺の返事を聞き、ぱぁぁと明るくなった優菜だっだが、すぐにムスッとした表情になり、


「気づくの遅い……。許さないんだからっ。もっといっぱいキスしてくれないと、許してあげないんだから……」


「~~〜〜っ」


 再び強引に唇を奪う。

 そこから何度キスしたか。

 十数年幼なじみをやって初めて知る優菜の姿にますますたまらなくなる。


 もっとキスしたかったが、歯止めが効かなくなりそうなので、グッと我慢し唇を離した。


「今度の週末、デートに行こうな」


「え、ふ、ふーん……べつにいいけど……」


 と、言う優菜だが、口角の緩みが隠しきれていないし、ギュッと腕にしがみついてきた。

 豊かすぎる胸がむにむにと当たってくる。


 その後、教室に戻って付き合うことになったと報告すると、クラスメイトの大半から「やっとかよ〜〜!」と安堵の声が漏れたのだった。




 放課後になり、俺と優菜は一緒に帰るため、靴箱にいた。


「んじゃ、帰るか」


「……手」


「おう」


 朝のようにお互いの指と指を絡め合う恋人繋ぎ。今度は本当のだ。


「涼夜先輩!!」


 そんな時、後ろから誰かに呼び止められた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る