第1話 幼馴染の様子が変?
カーテンの隙間から優しい光が顔を照らしだし、その光が朝だということを自覚させる。
いつもの変わらない朝。
俺は幼馴染に乱暴に起こされるはず、なのだが……。
「おはよう」
「……え?」
挨拶をしてくれることはいいことだ。
問題は優菜が俺の隣、布団の中にいること。
目を開けたら、黒髪の女(優菜)が隣にいて、結構ビビったのは秘密。
艶やかな黒髪に、くりっとした大きな瞳にスッと通った鼻筋。柔らかそうな唇。
緩く着崩し、制服をさらに押し上げるほどの巨乳。
相変わらず高校生とは思えない発育の良さである。
「って、なぜ布団の中に入っている!?」
慌てて起き上がり、距離を取る。
「嫌だった?」
「嫌じゃないけど……。お前、昨日まで俺のこと叩き起こしてたじゃないか!」
『起きろ!』
容赦なくカーテンを開け、直射日光を浴びせてくる。それが我が幼馴染。
『まぶっ!? もうちょっと優しく起こせないのかよッ!』
『はーっ? わざわざ起こしてもらっている身でそんな贅沢言ってんじゃないわよ!!』
と言われ、叩かれるまでがセット。
「そ、そうだったけど……」
何かまずいことを言ったのか優菜の顔が曇る。
「昨日までの私は……ううん。今までの私は涼夜にひどい態度を取ってきた。照れ隠しのために暴言や軽い暴力。意地を張って褒め言葉の一つも言えない。そんな最低な幼馴染」
優菜が淡々と述べる言葉を俺は黙って聞く。
「そんな私は涼夜に嫌われて当然だよね」
……嫌う? 俺が優菜を?
「今日から私、変わるから。だからね、私のこと嫌いにならないで……っ」
ついには泣き始めた。
一体、何が起こっているが理解できない。
俺が優菜を嫌うなんてあり得ないし、自分の振る舞いに悩んでいる様子……。
「優菜」
名前を呼ばれ優菜は一瞬、身体をビクッとさせたが、逃げたりせず、ただ俺の顔をジーと見て待っている。
俺は彼女の身体を俺の身体にすっぽり収まるように抱きしめた。
「そんな思い詰めるな。お前の本当の気持ちくらい分かってる。だって幼馴染だから」
胸の中で息を呑むのが聞こえる。それから啜り泣く音。
「っ、これからは……もっと甘えてもいい?」
「もちろん」
「……ありがとう」
まだ状況が飲み込めないが、「よく打ち明けてくれた」と褒めながら頭を撫でてやると嬉しそうに笑っていた。
◆◇
俺と優菜のコンビを見た周りの生徒は『あぁいつものことか』で片付けられるほどに、謎の納得で染まりつつある。
だが、今日は違った。
「ゆ、優菜さん……?」
「なに?」
「なんでそんなに距離が近いのですか?」
お互いの指と指を絡め合う恋人繋ぎ。
近いどころかゼロ距離である。
「涼夜が甘えていいって言った」
「いや、甘えるにしても色々飛ばしすぎじゃね?」
甘えるって言ったら、素直になるとか……いや、これ素直になりすぎじゃね?
「嫌、なの?」
「嫌じゃないけど……」
そんな捨てられた子犬みたいな目をされたら断れない。
周りの生徒からの視線を受けながら、そのまま教室に入る。
「お前ら、やっと付き合ったの?」
優菜と一旦別れ、自分の席につくと、友人に話しかけられた。
「いや、付き合っては……いない」
「付き合ってなくて手とか繋ぐのかよ。幼馴染凄いな。で、進展はしてんの?」
「進展……今日はいつもより優しくて甘い気がする」
「ほーん。優菜ちゃんも変わる決意をしたんだな」
変わる決意。
友人の口から出てきた謎の言葉に、首をかしげる。
すると、友人は笑みをもっと歪め、俺の耳元に口を寄せて。
「優菜ちゃんな、友達にお前との関係について色々問い詰められ時、『涼夜なら私の全部を捧げられる』そう言ったらしいんだよ」
「ぶっ!?」
「つまり、お前にゾッコンていうことだな」
優菜が俺にゾッコン。普段の態度からは考えられないが……。
そういえば一緒に帰ろうとした時、女子の方から冷たい視線が飛んできた時もあったな。あれはまさか、「さっさとの付き合え!」という無言の圧だったのか?
しかし……
「全部を捧げるって……」
俺も健全な男子高校生。
全部と言ったら身体まで捧げるってことを真っ先に想像してしまう。
誰もが憧れるあの美ボディを独り占めすることができるなんて……。
優菜の方を見ると、ちょうど視線があった。
その時、ピコンとスマホが鳴る。
優菜からだ。
『………スケベ』
ごもっともなメッセージが来たのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます