【完結】「今更、好きだと言われても、もう遅い!」と放課後の教室で言ってみた俺。翌日、パワハラ幼馴染がめっちゃ甘々なんだけど……?

悠/陽波ゆうい

プロローグ 変わるきっかけ

「今更、好きだと言われても、もう遅い!」


 放課後の教室。

 誰もいない中、そう叫ぶ少年が1人。


 そう、俺、永草涼夜ながくさすずやだ。


 今、手に持っているのは、友達にお前と似ている境遇だと言われて渡されたラノベ小説。


 開けているページには、主人公に長年パワハラをしてきた幼馴染が先程の台詞を言われて後悔しているという、いわゆるざまぁシーンが繰り広げられていた。


 確かに、小説の幼馴染は俺の幼馴染と若干似ている。


 黒髪のツーサイドアップに、大きな瞳に長いまつげ。白くきめ細やかな肌にはシミひとつない。


 巨乳で全男子を虜にする学園のアイドル。

 それが俺の幼馴染、桐谷優菜きりたにゆうなだ。


 子供の頃から喧嘩友達みたいな関係で、今でも競い張り合う関係。

    

 俺とはよく喧嘩するが、他の奴らには頼りがいにされており、姉御肌的存在。


 扱いは確かにパワハラと言われたら、そうも捉えられる。


 だが、暴言や軽い暴力などそんなのもう慣れっこ。

 睨まれるぐらいで済むならいくらでも睨むといい。その代わり、俺はその綺麗な顔面を見つめ続けるだけ。


 俺は幼馴染の優菜ことが好きなのだ。


 言っとくがドMではないぞ?

 

 なんだかんだで飯を作ってくれるし、頼み事をすると、嫌な顔をされつつも、最後は「仕方ないわねっ」と言うこと聞いてくれるし。 


 口を閉じれば満点と言っていいほどの美少女。

 

「しかし、まぁ……」


 再びページに視線を移し、改めて思う。


 これでほんとにこうなるのか?

 泣きじゃくってごめんなさい、ごめんなさいという文章は見ていて心が痛む。


 アイツもツンデレ過ぎるが、あれは自分の感情がうまく出せず、誤魔化すためにああなっているのは分かっている。


 ……幼馴染ざまぁは嫌だな。

 

「よし、帰るか」


 続きは明日読むとして、鞄を持ち、そそくさと教室を出る。


 胸糞悪いシーンを見たせいでちょっと胸がザワザワ。


 俺が「今更、好きだと言われても、もう遅い!」という日はないだろう。

 優菜が聞いたら悲しみそうだし。


 だが、俺は知らない。

 幼馴染張本人がその台詞を聞いていたとは。



◆◇


  私、桐谷優菜きりたにゆうなには好きな人がいる。

 それは幼馴染の永草涼夜だ。


 顔を合わせればいつも口喧嘩で、周りからは夫婦喧嘩だの、犬猿の仲だのさまざまなことを言われている。


 別に涼夜のことが嫌いだというわけじゃない。


 むしろ好き、大好き。


 笑顔も、めんどくさそうにする顔も眠そうにする顔も……全部が、全てがカッコいい。


 だけど彼の前だと素直になれない。

 意地を張って、カッコいいの一言も言えない。


 でもいつかアイツに言ってやるんだ。

  

『貴方のことがずっと好きだ』と。

 

 



「涼夜ったら、一緒に帰れるんだったら連絡ぐらいよこしなさいよね」


 今日は日直と聞いたが、予定より早く終わったと、一緒に日直をしていた子が言っていた。


 そして、涼夜は教室に戻ったとのこと。

 

「校門で待っていた私が馬鹿みたい。帰りに肉まん奢らせてやる」


 不満を募らせ、教室付近に差し掛かった時だった。


『今更、好きだと言われても、もう遅い!』


「!?」


 中からそんな声が聞こえた。


 この声は…… 涼夜だ。


 その言葉に胸の奥が少しだけキリッと痛んだ。


『貴方のことがずっと好きでした』

 

 その返事が、


『今更、好きだと言われても、もう遅い!』


 だったとしたら……。


 ゾワリ。

 最悪の展開を想像しただけで鳥肌が立ち、泣きそうになる。


「……やだ、涼夜に振られるなんて。涼夜が他の女の子のところにいっちゃうなんて……」


 涼夜が私以外の女の子と隣に並んで、笑いかけている姿を想像するだけで……。


 ………………。


 教室に入ろうとしていた足を逆方向に。そして玄関の方へ歩き出す。


 いつかじゃもう遅いんだ。

 




 

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