完膚なきまでに幼馴染ざまぁ③
「まぁファミレスでの録音があるから無理だと思うけど」
「え?」
呆気を取られてポカンと口を開ける幼馴染。
俺は口角を緩めると、タネ明かしするみたいに。
「俺が別れを告げた日だよ。あの日、俺もファミレスに居たんだ。偶然にも、お前とアイツが座った席の一つ後ろにさ」
「う、うそ……」
「少しは不審に思わなかった? 俺が待ち合わせ場所に選んだ場所」
「……っ」
幼馴染は息を飲み込むと、再び押し黙る。
「それと、お前が不法侵入した時の録音もある。凛花が録音してくれてたんだ。それから今現在の録音もな……まぁ今の会話を録音したところで、あんまり意味ないかもしれないけど」
俺はスマホを開き、録音状態になっていることを示す。
幼馴染は目を見開くと、ぺたんとその場に座り込んだ。
膝を曲げて女の子座りする彼女に、なおも続ける。
「お前のお父さんは俺と同じで信じやすい。でも、こういう物的証拠がある以上、信じない訳にいかない」
「…………あ、あたし……本当にトシ君のこと……好き、なんだよ……」
ゆっくりと顔を上げて涙で赤く腫れた目を見せてくる。
だが俺は動じない。俺もその場に腰を下ろして、幼馴染と視線を合わせる。
「お前って、俺と凛花が公園で一緒にいるのを目撃して、付き合ってるって勘違いしたんだよね」
「……うん、そうだよ」
「その後、傷心中のところに付け込まれて……身体を許した」
「…………うん」
「で、結局俺と凛花が付き合ってないって後から知って、後悔して……貞操観念がおかしくなった。だいぶ端折ってはいるけど、合ってる?」
「うん……合ってる」
そこまで事実を確認した上で、俺はフッと小馬鹿にしたように笑った。
「な……なんで、笑うの?」
「いや、この期に及んでまだ嘘つくんだなって思ってさ」
「え? あたし嘘なんか……」
「俺のことを本当に好きって言ってた事についてだよ」
「それは本当だよ! 嘘じゃ──」
「嘘だろ」
ピシャリと断言する。
言質は取れた。あとはもう俺のターンだ。
「じゃあもしさ、お前の勘違いではなく、俺と凛花があの時付き合ってたらどうなるの?」
「……っ」
「俺と凛花が恋人じゃないって分かったから後悔したんでしょ? じゃあ、恋人だったら後悔しなかったって事になる。違う?」
「そ、それは……」
「それは?」
「…………」
「黙ってたら分かんないよ」
幼馴染は目を左右に泳がせ、落ち着きのない挙動を見せる。
わなわなと両手を合わせると、拙い口調で切り出した。
「……と、トシ君のこと……好きなのに……違いは……ない、よ」
「時間取っておいて、言う事それ?」
「……っ」
「もういい。あ、てかお父さんに全部バラすだけじゃないから。それがメインなだけで、他にやることはある」
「な、なに……するの?」
不安を帯びた瞳で俺を見上げる幼馴染。
「俺との思い出、全部捨てる」
「え?」
「お前って写真とか良く撮るから、俺の写真いっぱい溜まってるだろ。それ全部、捨てようって思って。あと、俺と繋がりのあるもの全部。お前のお父さんが帰るまでまだ時間あるだろうから十分間に合うと思う」
「か、勝手に話進めないでよ! や、ヤだよそんなの……!」
俺が腰を上げてやる気を見せると、幼馴染が俺の足にしがみついてきた。
「もう繋がりをなくそう。それが一番解決になると思う。いや、この言い方はよくないな。俺がお前との繋がりをなくしたいんだ」
「……か、過去まで奪わないでよ。トシ君との思い出、捨てたくない……!」
どの立場で物を言っているのだろう。
散々勝手な事をして、自分がやられたら嫌なことはされたくないらしい。
と、完全に置いてけぼりを喰らっていた坂木が、会話の中に参入する。
「苗木くん……そこまでしなきゃダメなの? 許せとは思わないけど……でも、そんな繋がりを断つだなんて……。僕、幼馴染とかいないから分からないけど、幼馴染ってそんな簡単に切っていいものなの、かな」
「簡単じゃないよ。でもそうする事でしか解決しない」
「極論、じゃないかな。僕は、兄妹みたいに仲いい苗木くんと月ちゃんが羨ましいって思ってたよ。……そ、そうだ! 月ちゃん、アレを苗木くんに渡そうよ! 頑張って作ったんだから。あ、あのね苗木くん──」
「黙って。黙ってよ、もう! 余計なことしかしない! アンタが余計なことしたせいで……あたしまたトシ君に嫌われたんだ! これ以上、余計なこと言わないでよ! 黙ってよ!」
精一杯この場の空気を盛り上げようとする坂木。
そんな彼に対して、幼馴染は激高する。広いリビングを木霊するくらい声量を上げて、苛立ちをぶつけるように床を拳で叩いていた。
突然の幼馴染の変容に、坂木は唖然とする。
「また、人のせいにするのか……」
「……っ」
「坂木はさ、女装癖とか変わってるトコあるけど、俺なんかよりよっぽど優しくて気が回って……この場においてはお前の味方してくれてたんだよ。なのに……本当に最低だな。結局、何にも変わってない。何にも変わってないよお前」
「…………」
幼馴染は項垂れるように顔を伏せると、しばらくその場で放心していた。
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