完膚なきまでに幼馴染ざまぁ②

「優しい? 都合のいいの間違いでしょ」


 そう問い詰めた瞬間、幼馴染の目に動揺が走った。

 肩をすくませ、身を縮めている。静寂のカーテンが下りるリビング。


 そんな中、恐る恐るといった様子で坂木が口を挟む。


「な、苗木くん……なんかいつもと雰囲気違う……よ? 確かに、嘘を吐いたのはよくないけど……月ちゃんは寂しかったんだよ。だからって何しても言い訳じゃないけど、でも、ちょっとは月ちゃんに目を向けてあげても良かったんじゃないかな……」

「あぁ、坂木は知らないよな、コイツがどういう人間なのか」

「え?」

「実は俺とコイツは付き合ってたんだ。でも、浮気されて破局した」


 単刀直入に包み隠すことなく話す。

 坂木は内容が内容だけにすぐ理解できていないようだった。


 幼馴染は下唇を噛み、身体を小刻みに揺らす。ぼそりと小さく声を上げた。


「トシ君……無理、してる」

「は?」

「だってトシ君は、コイツとかお前とか、雑な呼び方しない……しないもん。あたしのことは、愛里って呼んでくれるの……」

「いきなり何言ってんだ。話の邪魔をするな」

「い、いつものトシ君がいい……いつものトシ君に戻ってよ!」

「全部、お前が招いた事だろ……。勝手な事言うなよ」


 元々、俺だって強い言葉を使いたいわけじゃない。


 お前だの、コイツだの、雑な呼び方をしたいわけじゃない。幼馴染だの、元親友だの、記号を作りたい訳じゃない。本当は名前で呼びたい……でも、俺は弱いから。


 そうやって繕わないと、すぐに心が折れてしまう。


 重たく吐息を漏らすと、俺は中断していた話の続きを行う。


「コイツは……月宮愛里は顔が良ければ誰とでも身体の関係を持つような女なんだ。さっきチラッと言ったと思うけど……そのくらい貞操観念が終わっててさ。俺と付き合ってからも、それは変わらなかった」

「……う、嘘……だよね?」


 坂木が当惑した様子で訊ねる。

 俺というよりは、幼馴染に向けての質問だった。


 幼馴染は黙ったまま、ただ視線を下に向ける。

 沈黙を肯定と捉えた坂木が、再び俺に視線を合わせてきた。


「坂木は顔がいいから、もしかすると狙われてるかもな」

「ち、ちがっ! そんなことない! あたし、ホントにあれから誰ともしてない!」


 椅子が倒れるくらい勢いよく席を立つと、俺との距離を詰めてくる。

 俺の服にしがみついて、矢継ぎ早に身の潔白を訴えてくる。


「正直、どっちでもいいよ。そもそも、俺とお前はもう恋人じゃないんだ。誰と関係を持とうが俺には関係がない」

「……そう、だけど……あたし、反省……してて。もう、誰かと馬鹿な真似する気はない……の」

「気安く反省とか言うな。誰とも関係を持たないことが贖罪じゃない。本当に何にも理解してないんだな。もう、いっそ可哀想になるよ」

「だ、だってあたし……トシ君みたいに頭よくないもん。トシ君が教えてくれないとわかんないよ! 勉強だって……トシ君が教えてくれないと無理なの。全部、全部教えてよ……直すから、だから……!」


 両手を握りしめて、今にも号泣しそうなくらい涙を目に溜め込む。

 ただそれでも俺は情け与えない。なんでも彼女に教えてあげる俺はもういない。


「俺は生半可な決意をした訳じゃない。今回で、お前とはちゃんと決別する。お前のお父さんには全部話すよ」

「……っ。ぱ、パパは関係ない……じゃん」

「大ありだよ。それで大人の適切な判断を期待する」

「パパを悲しませたくない……の」

「悲しませる事しといてよく言うよ。それならお得意の言い訳して乗り切ればいいんじゃないか?」

「…………そんな……」


 落胆する幼馴染に、俺は更に追い打ちを重ねる。


「まぁファミレスでの録音があるから無理だと思うけど」


「え?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る