第23話
ルチルが、あの着ぐるみを使った事実があるとするなら、本当に超最大の謎として、ウヴァロヴァイトの心を占めることになる――ルチルがあの着ぐるみを使ったなら、余程、他の手立てが無くて、焦っていたに違いない。そうすると、アルマンディンを殺害した犯人の条件からは、浮く気がした。アルマンディンを殺害した方法は、どう見たって、ち密に計算されていたからだ。わざわざ自分が発注した、自分が疑われるような着ぐるみを着用し、堂々とする内容の犯行ではない。慌てて、姿を隠すために、それしかないからあの着ぐるみを着た。そう言う方が、ずっと正しい感じがあった。
ウヴァロヴァイトはプリンを口に運ぶ。味がしなかった。
何故、あの冷静なルチルが其処まで追い詰められたのだろう。その方が、アルマンディンがこんな風に命を落とした理由より、不思議な気さえしてしまうのだった。
或いは何かのメッセージである可能性を、一ミリくらいは考慮してみることにする。
ルチルはウヴァロヴァイトにも言葉を発したためしは無い。そんなルチルが、アルマンディンを始末してしまったとして。あの着ぐるみを着たことが、ウヴァロヴァイトや、周りに対するメッセージである可能性だ。敢えてルチルの犯行であると伝える意味――は、ない。全く無い。大体、どうしても自分がやったと伝えたいなら、顔を晒せば良い。たったそれっぽっちのことだ。
とは言え、ルチルの着ぐるみの管理法に盗まれるほどの抜かりがあるとも思えない。あれを着たのは矢張りルチルなのだ。そう考えると、アルマンディンを手に掛けたのも必然的にルチルということになる――か?
いや。未だ、着ぐるみを着てアルマンディンを訪ねただけと言う考えも出来ない訳ではない。かなり細い線だが、無いとは言い切れない。そうなると、アルマンディンを始末した人間は、どうやって彼を殺すために彼の居室に入ったかという疑問も、必然的に生まれる。が。
ウヴァロヴァイトは右手をぱっと挙げた。部下の女たちがわらわらと寄って来る。
「おまえたち。このマンションの監視カメラが何日で消去されるか、調べておけ」
ジェードが監視カメラの映像を調べた、というが、だからこそ着ぐるみを着た犯人像が浮かんだことになるが。
しかし、その映像は精々、彼の死の前後数日、短くて数時間だろう。故に、その前から犯人がアルマンディンの居室にいたとしたら。犯行は可能になってしまうのだ。
クンツァイトがまた前のめりになって訊いて来る。
「なぁ、犯人が分かったのなら教えたまえよ。何か情報があったのなら、それはそれで聞かせたまえ」
群れが違う奴にそんなこと教えるものかと思って、ウヴァロヴァイトは首を左右に揺する。
代わりに、問いかけに問いかけで答えることにした。
「どうしてそんなにアルマンディンの死に興味を持つんだ」
「そう言う訳ではないが……興味を持っているのはおまえに対してさ」
サーベルの先端がウヴァロヴァイトの顔を向く。
「私?」
「このクンツァイトは法である。困った人間がいれば、それを困らせた人間を取り締まる権限と義務がある」
眉に唾を付ける仕草をしてやり過ごした。
「余計な気遣いはいらないから余計なことだけしないでくれ。私は私の群れを守る権限と義務を必ず行使する」
「ねぇ……そんなどうでもいいことは兎も角」
手をぱん、と叩いたのはオパールだ。
「私がアルマンディンさんにお貸ししたお金は何時返って来ますの?」
腹立たしい女だ、と思う。実際には金など貸していないのだろう。死人に口ナシ――言ったもの勝ちだ。
ウヴァロヴァイトは話しを変えんと、真珠の手首をスプーンで指した。
「その金の腕輪には目もくれないんだな。チャロアイトに媚びを売れば貰える。見たところ本当の金だ。売り飛ばせば金になるだろう。オパール、おまえなら涎を垂らして飛び付くと思ったがな」
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