第22話

「チャロアイトには、そう言うところがあるから」


 真珠は、ふわふわと笑った。


「チャロアイトは、つまりただの馬鹿ってことだな」


 ウヴァロヴァイトが頬杖を突いているところに、やっとジェードから連絡が来る。それは、この物語で言うところの前述となる、ルチルが某イベントの着ぐるみ担当であるという事実を伝えるものだった。

 ウヴァロヴァイトは無言のままに電話を切った。相槌すら打たなかった。


「どうしたのであるか、ウヴァロヴァイトよ。アルマンディンを殺した犯人が分かったのか?」


 クンツァイトはテーブルにしな垂れかかるようにして笑っている。話してやる必要もない気がして、ウヴァロヴァイトは口を噤んだ。


 アルマンディンを殺した犯人は分かったのか、と頻りに問うてくるクンツァイトを手で追い払いつつ、ウヴァロヴァイトは考え込むことになった。

 別段、ルチルをこの情報だけで始末してしまうのは、問題無い――そんなに、ウヴァロヴァイトにとって、守る価値があると言う程でも無い。容疑者であるなら、消してしまっても構わない。

 しかし、本当にルチルがアルマンディンの息の根を止めたなら、余りにも稚拙すぎるのではないか。

 自分が発注した着ぐるみを使用して、事件を起こす程、馬鹿な女では無い。と言うか、そこまで中途半端に分かり易い犯行をするなら、いっそ、私がやりましたと申し出て、ウヴァロヴァイトが群れの王として、その後始末をする。二人の関係性というのは、そういうものだ。

 信用している訳ではないが、使い勝手の良い駒が無暗に減るのは避けたい。それは、将棋で、飛車を取られるようなものだ。取られても敗北ではないが、あの程度使える駒を新たに手に入れるのは、時間も金も労力もかかるのだから。


 ルチルが、あの着ぐるみを使った事実があるとするなら、本当に超最大の謎として、ウヴァロヴァイトの心を占めることになる――ルチルがあの着ぐるみを使ったなら、余程、他の手立てが無くて、焦っていたに違いない。そうすると、アルマンディンを殺害した犯人の条件からは、浮く気がした。アルマンディンを殺害した方法は、どう見たって、ち密に計算されていたからだ。わざわざ自分が発注した、自分が疑われるような着ぐるみを着用し、堂々とする内容の犯行ではない。慌てて、姿を隠すために、それしかないからあの着ぐるみを着た。そう言う方が、ずっと正しい感じがあった。

 ウヴァロヴァイトはプリンを口に運ぶ。味がしなかった。

 何故、あの冷静なルチルが其処まで追い詰められたのだろう。その方が、アルマンディンがこんな風に命を落とした理由より、不思議な気さえしてしまうのだった。

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