第19話

 しかし、チャロアイトが電話を終える頃、ジェードはふっと思い至った。

 アルマンディンの命を奪うために、犯人は着ぐるみを着用していた。そう、その着ぐるみを、犯人は如何調達したのだろうか。スーパーで販売しているものでもなければ、道端に落ちているものですらない。

 もし、今度の、ジェードたちのような職業の者たちが一堂に会する、そのちゃんちゃらおかしいイベントの関係者が、犯人なら――そう仮定すれば、一つの道筋が見えて来る。


「チャロアイト。その、今中止になったイベントの、詳細は分かるか」


 ジェードが早口で言いながら詰め寄ると、チャロアイトはやや怯えたような目を見せつつ、首を縦に振った。


「僕は、そのイベントの主催の一人だからね」


「主催……? チャロアイト、おまえが……?」

「う、うん。言ってなかったっけ……」

「言われてない」


 言われて無いし、言う義務も無い。

 ジェードはあくまでマンションの管理人、チャロアイトはその住人。過ぎた要求は、仲を深めたと自分自身に誤認させる失態に他ならない。

 情を移しては絶対にダメだ。

 しかし、捜査として訊いておくべきことは答えさせなければならない。


「そのイベントには着ぐるみが使われる予定だったんだな?」

「うん……」

「それが盗まれた。どんな着ぐるみだったんだ?」

「僕は着ぐるみの発注係ではないからデザインとかは分からないけれど。発注係さんに訊いてみたら分かるんじゃ無いかな」

「その発注係に連絡を繋げろ」

「電話なら分かるけど……」


 名前はどうせ偽名だろうから、訊いても無駄だが、電話番号が分かると言うなら、少なくとも、イベントがある間は通じるだろう。もう、暇はない気がした。


「早く」


 命じるとチャロアイトは慌ててスマートフォンを取り出す。アゲハ蝶のラインストーンのシールが貼ってあった。

 その、発注係の番号を入れたのだろう。

 やや間があって――

 着信音は、直ぐ傍から聴こえた。

 本当に、直ぐ傍から。

 ジェードとチャロアイトは目を剥いて顔を上げた。

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