第17話

「其処に昼休みが終わって生徒たちが帰って来た。他の教師を呼ぼうと言うから、その前に床を掃除しろと命じ、私は給食を続けた。勿論、その目撃した生徒も後に始末した。Aは何故かその日から学校に来なくなり、そうすると、どんなに馬鹿な小学生でも理解する。私に従わなければ命は無いと。私は何時の間にか、その教室の王者になっていた」


「ウヴァロヴァイトは大変であったな。自力でその地位を手に入れなければならなかった。このクンツァイトと違ってな」


ワインを持って来てくれ、とウヴァロヴァイトの部下の女に対しクンツァイトの指示が飛ぶ。ウヴァロヴァイトが小さく頷くと、


「赤ですか、白ですか」


「うむ。ロゼで頼む」


と、クンツァイトの嗜好を確認した上で、去って行った。


「クンツァイトは違うのか?」


クンツァイトは、薄めた血のようなロゼの入ったグラスを傾けた後、ゆっくりと答えた。


「いかにも、私は王子であるからして、王の息子なのである……今持っている私の地盤は全て、父から譲り受けたものである。王子である故に私は部下を自由に扱うことができるである……」


「お前は父親の代から、こんな、人の命を右から左へやるような仕事をしていたのか」


「いかにも、このクンツァイトが王子なら、父は王である。故に、我が縄張りにおいて、人の命は我々の自由に扱えるのである!」


「成程……」


 彼の命に対する判断が合っている判断なのか、そうでないのかは全く別として、兎に角、クンツァイトを早々に始末しなくて良かったと、ウヴァロヴァイトは、ほっと胸をなでおろすのである。下手に手を出していたら、返り討ちに遭っていたかもしれない。


「このクンツァイトと父の決めた法は我が統治する土地に対し絶対である。故に、このクンツァイトとその法に逆らったものは、その目を……」


 クンツァイトはサーベルを取り、右から左へ、すーっと舐めた。


「このサーベルで突き刺すのである。我が家の誇りに掛けてな」


「でも、壮絶で聞いてて恐くなっちゃったなぁ」


 真珠が腕組みしてうんうんと頷いた。着流しから出ている腕は細く、このマンションの住人としてどうやって生きているのか、確認するようにクンツァイトがその姿をじっと見ていた。


「ウヴァロヴァイトさんも、クンツァイトさんも、如何にもワルって感じだ。チャロアイトも、前に、此処にたどり着くまでの経緯みたいな話を、ちょっと聞いたけれど。それもそれで、何だか凄くて、僕なんか全然、このマンションの住人に相応しく無いなって思うよ」


「相応しく無い? おまえも悪党だから此処にいるのだろう?」


「全然だよ、僕なんか」


 クンツァイトの問いに、真珠は両手をふるふると振って見せた。


「僕なんか人の命を奪ったことも無いんだから」


 それで真珠は、冷静スープを口に運んで、にっこりと笑う。


「クンツァイトさんは、お父さんを尊敬している?」


「勿論である! 我が父は、この優秀であり天才であるクンツァイトを生み出した功労者であるぞ」


「うん、クンツァイトさんはお父さんが大好きなんだね……僕もそう。僕も母さんや父さんが大好き。おじいさんも、おばあさんも。ひいおじいさんも、おばあさんも大好きなんだ」


 この着流しはね、おばあさんが大事にしていたものを僕が崩したんだよ、と白い頬を赤くし、真珠は微笑んだ。

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