第15話
ウヴァロヴァイトは部下に向かって手を揺すった。
「美味い物を用意してくれ。オパールも食っていけよ」
オパールは、それどころではない、チャロアイトにも腹が立つが、何より自分は六百万円を回収しなければならない、云々と語ったが、まぁまぁとウヴァロヴァイトが宥めると、椅子に腰かけた。
オパールにしてみれば、ウヴァロヴァイトが身に付けている宝石やアクセサリーの高級さを見て、素直に従ったのかもしれない。
「まぁ、とにかく、折角こうやって互いに会ったのだから、群れの情報交換をしよう。情勢を伝え合って」
「私の部下たちや仲間のいるあたりのことか? 仕事はあまりないが、争いも無い。平和なものだ」
「クンツァイト。おまえ自身のことも教えてくれよ。そう言えば、クンツァイトの趣味や、個人的なことは何も知らないからな。勿論話せる内容だけで構わないが」
「それならウヴァロヴァイト。其方のことも聞かせてもらうからな」
「ああ、その取り引きで構わない。おまえが情報を与え、私はおまえに情報を与える。私がくれてやるのは、おまえが与えた情報のレベルに見合ったものだ」
ウヴァロヴァイトとしても、本当の話ばかりを聞かせてやるつもりなどさらさらない。なに、向こうが真実を語らうとも限らないのだから、良いだろう。
そこにオムライスやシチュー、血の匂いを消すほど甘い小麦の香りのする焼き立てのカンパーニュ、七面鳥の焼いたものなど、御馳走が続々と運び込まれ、あっと言う間にテーブルを覆った。
あまりに美味しそうな見た目だけで、食卓に着いている皆の目が釘付けになる。
が、ウヴァロヴァイトがぱっと両手を挙げると、全員固まった。
「待て。ライオンの群れ……プライドでは、最初に食事をするのはリーダーの雄ライオンだ」
「おまえはライオンでは無く人間であろう」
クンツァイトが唇を尖らせてぶーぶーと、文字通り「ぶー」と声すら出したが、ウヴァロヴァイトは全く意に介する様子すらなく、前傾姿勢になってマカロンの皿の縁を掴むと引き摺り寄せた。
そして、懐から小さなフォークを取り出し、その先っぽでさくりと、クリームと生地を掬い上げて口に運ぶ。
「……悪く無い」
美味さの余り漏らす溜息もクリームの香りがする気がする。ウヴァロヴァイトはスイーツが好きだった。
しゅっと空を切り裂く音を立てて、クンツァイトがサーベルでウヴァロヴァイトの目の前の緑のマカロンを刺し、自らの口に運んでしまった。
自分の頬を両手で持ち上げ、美味しいと言うのをボディランゲージで示して来る。
「き……貴様……っ」
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