第14話

「……アルマンディンの借金?」


 クンツァイトは眉間に皺を寄せた。


「ええ。私、アルマンディンさんにお金を貸しておりましたの……六百万。と、その利子、あなた様がアルマンディンさんの上司の方であるなら、どうかお支払いいただけませんでしょうか? それとも、他に払っていただける方を紹介していただくという方法でも可能ですわよ」


 オパールはピンクのセーラー服のミニスカートの端をちょっと摘まんでぺこりと頭を下げた。


「どうぞ御検討くださいませ。クンツァイトさん」


「検討も何も……」


「逃がしませんわよ。どんな事情があっても、私はお金を回収いたします」


 クンツァイトの眉間の皺がぐーっと深くなる。


「レディ。何を勘違いしているのか、このクンツァイトの、磨きたてのナイフのような鋭い脳味噌をもってしても分からないのであるが……そもそも私は、アルマンディンとは殆どかかわりが無いのである」


「はい?」


 今度はオパールが眉間の皺を深くする番だった。


「クンツァイトさん。苦しい言い訳はおよしになってください。王子を名乗るのであれば……王子とは常に女性の前でウソなどおっしゃいませんことよ」


「いかにも、クンツァイトはキュートな王子である。故に嘘を吐いてなどいない。アルマンディンを全く知らないとは言っていない。しかし、金を代わりに払うほど深い仲でもないのである」


「チャロアイトさんから聞きました。あなたはアルマンディンさんの上司だと」


「チャロアイトも、また知ってはいるが……そちらも知っていると言うだけだが。レディ。チャロアイトを信じて私を信じないと言うのか?」


 オパールはピンク色のラメで染められた爪をがじがじとハムスターのように齧った。


「チャロアイトさんが騙したのですね……」


「そうとは限らない。勘違いの可能性もあるだろう」


 そう言いながら、ウヴァロヴァイトも理解している。恐らく、チャロアイトはオパールを騙したのだ。しかも、あわよくば、クンツァイトとぶつかり合うように仕向けた。

 無論、本当にただの間違いの可能性もある。だが、ここに悪意が潜むなら、何か、別の事件が裏で動いているかもしれない。

 群れのボスたるウヴァロヴァイトにしてみれば、看過できなかった。


「まぁ、クンツァイト。折角ここまで足を運んだのだから……何か食って帰れ」


「おお。気が利くではないか。ウヴァロヴァイト。こうして相対するのは初めてではあるが……お前とは良い友になれそうだ」


「私に友は不要だ」


 そう言うなよ、と隣に座りつつ肩を叩いて来るクンツァイトにうんざりしつつ。

 そう、彼から、情報を引き出さなければならない。

 今、自分のテリトリーとその少し外で起きている、アルマンディンの死を契機とした不穏な動き、それを解き明かすための何かを、彼が持っているかもしれない。

 本当に命を奪うべきは、この動きの中心にいる相手なのだから。

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