第11話
「クンツァイトって言うんだ。アルマンディンのリーダーは」
それをチャロアイトが知っていることも不思議だったが、今は其処にツッコんでいる場合ですらない。
「呼べますか? その、クンツァイトさんを」
「良いけど……必ずしも、アルマンディンの借金を肩代わりしてくれるとも限らないよ?」
「其処は私が自分で何とか致しますので。よろしくお願い申し上げます」
そして、そこから数時間後――
フリースペースで待機していたオパールの元に颯爽とクンツァイトが現れるのだが、それはまた別頁の話。
今はジェードたちが、その数時間の間に何をしていたか、追うことにしよう。
アルマンディンの部屋は、清掃すらジェードがやったきりで、全てをゴミに出来た訳ではないから、血痕すらくっきりと残ったまま、入ると咽ぶような腐った血の匂いが立ち込める状態だ。流石に、修羅場を数多く乗り越えて来たジェードでも、服で口元を覆うようにして入っていかなければならなかった。
そう言えば、アルマンディンの趣味というのも、ジェードは彼の遺体を発見すると同時に見ることになったのだが、アルマンディンはロシアが好きだったらしく、マトリョーシカが山ほど並んでいた。そのどれもに今は血が着いており、転売は難しそうなのが残念だが、オカルトマニアなら、逆に高値で買うだろうか? 持ち主が惨殺された一品――
ジェードはそんなに守銭奴ではない。だが、ウヴァロヴァイトの怒りを少しでも軽減できる方策は、立てておくべきだった。
ただ、悲しいかな、ウヴァロヴァイトも金くらいでヘマを帳消しにしてくれるほど優しい人ではないのだ。
「アルマンディンの石言葉は、友愛なんだ」
声がして振り返ると、チャロアイトが、出入り口の狭間にしゃがんで、膝に頬杖をついて、死んだ魚のような目をしていた。
「僕は友愛って言葉が大好きだからね。アルマンディンのことだって好きだった」
「名前だけで好感度が増すなら安いもんだな。大体、俺たちも、アルマンディンも、偽名の偽名みたいなものじゃないか」
そう、このマンションの住人は、このマンションの中だけで使用する名前がある。「ジェード」も「ルチル」も「ウヴァロヴァイト」も「チャロアイト」も――勿論、「アルマンディン」も然り。
特に理由がある訳ではないが、宝石の名前を付けるルールになっている。ジェードたちのように後ろ暗いものたちは、無数の偽名を持っているものだ。なので、マンションの外で通用している名前を知ったところで、それすら偽名である場合も少なく無く、意味がなかった。
ジェードですら、住人たちの、マンションの外での名前は把握していない。そんなので良いのかと思わなくもないが、このマンションでは何もなくても金さえあれば飛ぶ鳥も落ちる。金さえあれば安全な部屋を借りられる。それが売りで――
いや、アルマンディンがこうなった以上、その売りはなくなってしまったのかもしれないが。
ぼんやりと苦々しく考えている間に、ルチルが手前の一番大きなマトリョーシカを手に取り、覗いていた。
「そう言えば、アルマンディンの遺体の傍にも落ちてたな。このマトリョーシカ」
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