Guilty Bloody

12月24日。


 小川を駆けていたはずの水は表面を輝かせたまま、彼女の瞬きによって写真に収められた。

 夜の土手に腰かける少年に近づく少女。

 一瞬にして止まった世界の真ん中で、頬月茜は彼女と出会った。

 クリーム色の癖っ毛。てっぺんにちょこんと乗っかった黒リボンのカチューシャ。

 まだ他にリボンは付けていない。

 千潮栗栖——そう少女は名乗り、


「お近づきの印に」


 ジュエリードロップと書かれた缶を取り出した。


「あ、うん」


 気圧されて手を差し出すと、コロンという音と共に大粒の飴玉が飛び出してきた。

 空を赤く染め上げるルビーは光沢を帯び、砂糖菓子とは思えない。


「イチゴ味! 良かったね、当たりよ」


 フフっと笑う栗栖。頬が桃色に染まる。


「あの……何か僕に用でも……?」


 少年にとっては初対面で必要以上に馴れ馴れしい少女。

 違和感を覚えても不思議ではない。


「ああ、そうだった」


 少年の両手にナイフを握らせる。

 銀色のナイフがギロリと睨む。

 ナイフにしては軽かった。発泡スチロールかと思えるほどに。

 しかし茜は直感していた。

 これは本物だと。

 そして同時にこうも感じた。

 ただのナイフではない、と。


 明るい声のまま、


「じゃあね」


 少女は笑い、手を振った。

 背を向けた少女は今にも消えそうで、この世界からいなくなってしまいそうで……

 いや。

 元から存在していなかったようで——。


 居てもたっても居られなかった。




 ——少年が、千潮栗栖を生み出したのだ。



 少女の了承も得ず、時は再び動き出した。小川の魚は世界が止まっていたことも知らずに、今までずっとそうしてきたと訴えるかのように泳ぎ続けていた。

 身体中血にまみれ、虚空を見据えた少女は笑っていた。

 不気味だ。

 クスクスと笑われていると錯覚した。どこまでも無垢で、痛みも悲しみも知らない赤子の口元。

 自分の手を見てごらん。

 そう言われているような気がして視線を下ろすと、


——っ!!


 どうして自分の手が染まっているんだろう。

 新品のぺンキに濡れているんだろう。

 鼻を劈くこの匂いはなんなんだ。

 手の隙間から滴る原初の水はほんのり温かかった。膝を丸め、鮮やかに紅く溶かした飴を手に付けたままの腕で自らを抱くと、温かいもので包まれた気がした。


 これがだった。


 ペチョリペチョリと鐘の音。

 月のほかに外界を繋ぐパイプがない、真っ暗な空間。

 大きな袋にくるまれ眠っていた頃を思い出す。




 ——少女が、頬月茜を生み出したのだ。




 少年には、溶けた飴の甘みしか感じられなかった。

 殺しはイチゴの味がした。

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