第53話 青林ゼミ

「で、あるからして、これは……」


レント先輩たちと遊園地へ行った日から四日後。

実はあの日は夏休みが始まってまだ二日目の日。

俺たちの夏休みはまだ先が長い。


青林には夏休み中に開催される、通称『青林ゼミ』っていう夏期講習的なのがある。

夏休み中、毎日何かしら、三教科ぐらい講座をやってて、好きなタイミングで生徒は参加できる。

ノルマとしては、生徒は各教科一回ずつ出席すればOK。

ちなみに、頭がいいやつとか、上位の大学を狙ってるやつ、あとは勉強が大好きなユータみたいな変態とかはそれ以上参加してるけどね。

俺みたいな勉強嫌いな一般人はノルマがこなせればそれで十分だ。


「白雪、ここでのキーワードは?」

「あ、えと、ゼータ関数の非自明なゼロ点は全て一直線上にある、ですっけ?」

「はいお見事」


ゼミ中の座席は成績順に変わる。前から頭がいい順だ。


今は数学の時間だから、俺は真ん中ぐらい。

数学だけはできる。天才かもしれない。

なんか難しそうな言葉もちゃんと覚えてるし。

あ、ちなみに数学以外だともちろん後ろの方の列だ。

アホかもしれない。まぁ、アホなんだけど。

ドルチェはどの教科でも最後列。

まぁしょうがない。

数学だけならあとで俺が教えてしんぜよう。

ユータとナーサは相も変わらず、どの教科でも最前列だ。

まぁ、あいつらが最前列じゃなかったら誰があの席に座れるんだって感じだけどな。


「はいじゃあ、ここまで解けたやつから解散な。丸付けまでできたら見せにこいよ〜」


お、ここは簡単……って思ってたら後ろからドルチェが唸る声が聞こえた。

あとで教えてあげないとな。


「「終わりました」」


声をあげたのはユータとナーサ。

やっぱり一番手はあいつらだ。


「いつまで経っても数学だけはナーサに勝てない。他はよっぽど上なはずなんだけどな」

「ふっ。数学だけは得意だからなぁ。ここの出来が違う」

「その言葉がすでに知能指数低そうだがな」

「んだよ俺は天才だぞ!」


「終わりました〜」


次に声を上げたのは俺。

そしたら、先に解き終わった2人がものすごい勢いでこっちを振り返る。


「嘘だ……」

「異常事態が起きている。ルークスにこのレベルの数学の理解は不可能だと目論んでいたのに」

「だよな、絶対無理だと思ってた」

「失礼だな!」


俺は数学だけはできるんだって!

てかユータに関しては絶対知ってるだろ!


「ルークス、終わったの?」

「おう。ちょうど終わったところだよ」

「助けて、ぜんぜんわかんない」

「ユータじゃダメか?」

「やだ。言葉難しいもん」

「ん、悪口か?」

「ほめてる」

「ならよし」


こういう会話してると、模範集団エリーツとか呼ばれてるけど、やっぱりただの高校生だな。


「ほらドルチェ、これが終わればノルマ達成だぜ。頑張ろう」


今日で5教科全部やったことになるから、ノルマは終わる。

そうなったら、残りの宿題もあるけど、ゼミにはもう行かなくて済む。

がんばれドルチェ。


「そうだね、サクヤさんも旅行行くって言ってたし、頑張んなきゃ」

「え」

「あれ、聞いてない? なんか、言伝荘のみんなと、旅行行く話」


…………聞いてない!

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