第45話 言伝荘での会話

「最近なんだか彼ら静かにしてたなって思ってましたけど……物騒ですね」

「そうなんだよねぇ……」


夕飯を食べながら、ドルチェとサクヤさんが会話する。


今日のメニューは肉じゃがとわかめの味噌汁。

サクヤさんが作ってくれるご飯は、ちょっと質素で『the 日本の食事』っていう感じがある。

この時代、料亭とかじゃないと食べられないようなものも作ってくれるからありがたい。

すっごく幸せ。


「なんか、ボクのところには、あの人たち来ないよね?」

「そうですね。悪役同士なら……昔の物語の中でですよ? その場合はお互いに殺し合っても意味がないんじゃないですかね?」

「だからか……ボクは得してる……のかな……?」

「そう考えていいと思います! まぁ、でも、敵役さんがいないと物語って成立しませんからね」


サクヤさんはドルチェに気を遣っているんだろうけど、伝わってるのかな?


「そう言うサクヤさんのところには来るんですか?」

「バンバン来ますよ! なんでかはわからないんですけど、みんな狐のお面を被ってるんです」


そこまで言うと、アルマさんとマドカさんが咳き込んだ。


「大丈夫ですか⁉︎」

「ゴホッ……いや、大丈夫だが、マドカさん、さっき聞いたのって」

「ゲホッ……え、えぇ……竜宮門の……」


「なにか知っていることでもあるんですか?」


サクヤさんが声をかけると、アルマさんとマドカさんが0.1秒で席を離れた。

なんて速度だ……


(マドカさん、これは、あいつらに何て伝えれば……)

(そうよね。2人だけお出かけしてずるいです! って言われちゃうわよね)

(えと……うちの式場で志々島さんと香田さんの結婚式があったっていうことでどうですかね?)

(そ、そうね。あと……生里くんは親戚の甥っ子ちゃんっていうことにしときましょう!)

(名案ですね!)


何をコソコソ喋っているんだろう……?

俺が覗き込もうとしたところ、2人は振り向いて、食卓に帰ってきた。


「いえ、式場で割と大変なことがあったんだけれど、これは話してもいいのかしら? と思って」

「その……狐の面のやつ、リュカ・フェリーチャにも来たんだよ」

「リュカ……って職場の式場でしたっけ?」

「そうそう」

「そこでね、浦島太郎っていう昔話の一家に出会ったのよ」


マドカさんのその声を聞いて、次はサクヤさんが咳き込んだ。


「ま、まだ生きてたのか……」


初めてサクヤさんが敬語以外を使ったところを見た気がする。

それはそうと浦島太郎ってなんだ?


「彼ら、わたしが150年ぐらい前に出会ったとき、そろそろうちは無くなるかもしれないって嘆いてたんです。家系図とかも見せてもらったんですけど、本当に絶望的な感じでした。まさか、まだ血筋が続いていたとは……」

「会ったことがあるんですね」

「はい。一度だけ」


偶然が重なりすぎている……


「それじゃあ、日本の昔話の人たちのところには、狐の面を被った悪役ヴィランが来る……のかな?」

「「「「それだ!」」」」

「ドルチェ賢い」「んふふぅ……」


褒められたドルチェは上機嫌でデザートの血液パックを啜っている。


「明日からは夏休みですから、学生の悪役ヴィランが多く遅いに来るかもしれませんね」


サクヤさんも食器を片付け始めた。


「式場の警備員さんにも警戒してもらわないと……」

「ったく本当傍迷惑な奴らだぜ」


仕事人2人はもはや職人のようだ。


「ヤンなっちゃう……ってやつですね?」


俺がちょっとふざけて話しかけると……


「あっ、そうよ、ルークスくん! もうヤンなっちゃうの!」


とびきりの笑顔でマドカさんが返してくれた。

アルマさんからとびきりの睨みもプレゼントされたけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る