第44話 桃太郎の苦労

「先輩、あんた会長だったんっすね」

「あんたとはなんだお前まで」


昼休みにユータを振ってレント先輩と一緒にご飯を食べることにした。

場所はもちろん屋上。


「ルークス、この美味しいやつ、名前、何?」

「それか? 『いそべあえ』っていうんだ。さすがサクヤさんだな。わかってるぜ」

「そうかぁ……」


もちろんドルチェも連れてきた。

近くに置いとかないとまだちょっと心配だからな。


「私は頭がいいわけでも運動神経がいいわけでもない。中学生のとき、生徒会長グランプリといってな。そんな大会があったんだ。勝手に応募されていて、勝手に審査された結果、なんだか知らんが勝手に一位にされていた。それで青林から推薦状が届いて、入学する運びになったんだ」


先輩は、そんなことを言いながら箸を進める。

……食い方めちゃくちゃ綺麗だな。

姿勢もいいし、箸使いがマナー講師も負けないぐらい綺麗だ。


「……あまりジロジロ見られても困るんだが。その、食いづらい」

「あ、すんませっ」


俺は目を逸らして、自分の顔とおんなじぐらいのサイズのライスボールにかぶりついた。


「すごい大きさのおにぎりだな」

「おにぎりって呼ぶんですか? これ」

「じゃあ、ルークスはなんと呼んでいるんだ?」

「ライスボール」

「……おにぎりの方が言いやすくないか?」

「おむすびじゃないの?」

「やめろドルチェもっと話がややこしくなる」


ドルチェは普通のサイズの……なんて呼んだらいいんだろう。

米の塊。それを食った。


するとその時だった。



抜刀ばっとう……雉の翼!」


レント先輩が箸と弁当を置いて立ち上がった。

手にはあの日見た、ピンク色のオーラを纏った日本刀。

さすが剣道部、と言ったところだろうか。

弁当を食べているときと変わらず、綺麗な姿勢で剣を構えている。


「……奴等だ。お前たちは少し伏せていろ」


そう言いながら、先輩が剣を向けている先にいたのは……


「呑気に屋上でお食事ですか。呆れたものですね」


狐の面を被った人だった。

男か女かもわからない。


だけど、おそらくこれは確実。

こいつは悪役ヴィランで先輩は襲われてる。


「聞いたところによると、お友達ができたようで? 大丈夫ですよ、その人たちを攻撃しても、私にはなんのメリットもない。なんならそこの可愛らしいお坊ちゃん……2人ともそうですね。茶髪の方のお坊ちゃんは鬼の子に見えます。ということは、どちらかといえば私側の子でしょう」


「……壬申の舞」


「あぁ、お喋りが過ぎてしまいましたね。そろそろ本番に移……」


悪役ヴィランが話している間に、レント先輩は彼の体を逆袈裟切りにしていた。


「こいつはお前のような悪鬼ではないぞ。改心している」



…………カッコよ……!



「戌よ、これを返上たてまつる。この悪人の血に裁きを」


レント先輩が呟くと、先程切った悪役ヴィランと、辺りに飛んだ血が消えていった。


「レント……すご」

「いや、先程の口上は事実を言ってしまえば恥ずかしいから嫌いなんだ」


先輩のところにも、あいつら来るんだな。

本当見境ねぇっつーか、なんつーか……

でも、今まで俺のところに来た悪役ヴィランは狐の面なんて被ってたことなかったよな……?


「食事中に惨たらしい姿を見せてしまったな。申し訳ない」

「大丈夫です。食事中とか関係なく、あいつら俺たちのところにも来ますから」

「そうなのか⁉︎ 奴等一体何人いるんだ……?」


「ってかドルチェ! お前大丈夫か⁉︎」

「……パックで耐えた。正直美味しそうだった」

「偉いぞ〜!」

「ここまで来るともはや保護者だな」




そんな会話をしているうちに昼休みが終わろうとしていた。


そして、俺たちが教室に戻ろうとしたとき、レント先輩が一言、俺に耳打ちしてきた。


「ルークス、その、本当に私が会長だということ知らなかったのか?」

「はい、生徒会とか興味なかったんで」

「……なるほど…………それほどまでに私は……」


レント先輩は額に手を当て、上を向く。


「どうしたんすかいきなり」

「いや、実は私、おそらく影が薄いのだ」


俺は、表情が真剣すぎて、思わず笑ってしまった。


「なぁんだそんなことかよ! 大丈夫っすよ! 今は半分友達みたいなもんじゃないっすか!」

「……そうか」

「大丈夫ですって! これからも時々一緒に飯食いましょう!」

「ありがとう。そうさせてくれ」

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