番外編②(いつもの5人)

第46話 【番外編5】5人の買い物

「ねぇ、来たはいいけど、どこ行くの? 何も聞いてないんだけど……」

「え⁉︎ アム聞いてないの⁉︎ ナーサに伝えとけって言ったんだけどな……」

「え、んなこと言ってたっけ?」

「うわ〜クズだ〜」

「よくなーい」「大罪人」

「いやそんなに責めなくていいだろ」

「許さないよ?」

「アムも味方してくれないのかよぉ」


久々の休日のお出かけに、彼らはかなりワクワクしていた。


ナーサ、フォンス、ティミー、トレーネ、アムール。

この5人は複雑に縁が絡み合い、仲良くなった5人だ。


ナーサとトレーネは去年のクラスメイト。

そして、アムールとナーサの家は近所。

アムールとティミーは去年のクラスメイト。

フォンスとティミーもご近所さん。

そしてフォンスとトレーネは行っている塾が同じ。


この5人が偶然、今年でクラスが一緒になったことにより、このグループができたのだ。


「今日はお菓子を買いに行きます」


ナーサが得意げに言う。


「え、僕あんまり甘いの好きじゃない……」


トレーネの顔がひきつる。


「せんべいでも食っとけ」


フォンスの声。


「あ、それなら好き!」


何故かここで反応するアムール。


「アムさんも甘いのダメなの?」


笑いながらティミーは言った。



そんな会話をしながら、一行は歩いていく。


たどり着いた先は彼らの青林から少し離れたところにあるショッピングエリアだ。


この辺りには遊戯施設、書籍店、洋服店、食事処からガチャガチャの専門店まで、沢山の店が揃っている。


この辺りに住んでいる学生が休日に来る遊び場は、大体ここだ。


「あれあれ。あそこに新しいお菓子屋できたんだよ」

「へー……え、このお店やっすいね。箱買いしていこうかな」

「アム、君お菓子好きなのか嫌いなのかわからないね」

「ん〜……多分どっちかっていうと好きなのかなぁ。もはや食事がめんどくさいからね」

「え? それ大丈夫?」


結局、アムールは『部活で役立ちそうだから』とお茶菓子をいくつか買っていた。


「これ、好きなんだよね」

「グミ?」

「そうそう。これが一番美味しい」


そう言いながらティミーが手に取ったのは、言わずと知れたあのクマの形をしたグミ。

2000年代で一時期流行った品だが、1000年以上経った今でも未だに売っているお店がある。


「トレーネ、これ見ろよ」


ナーサが声をかける。


「ん? どれどれ……」


それが見た瞬間、トレーネは目を見開いた。


「……お前、それやる気?」


実はちょっと有名だが、誰も手を出そうとしないお菓子。


『甘すぎるそれにご注意を』


5個入りのロシアンルーレット系のお菓子だ。

5分の2がハズレで、頭が痛くなるほど甘い。

動画サイトでストリーマーが食べたりしているが、甘過ぎて気持ち悪くなっていたりする。


それを、甘いものが嫌いなトレーネがやったらどうなるか。


「……5個入ってるらしいけど、僕、多分普通のやつでも死ぬぞ?」


首をブンブン振りながら拒絶するトレーネをよそに、ナーサはそれを購入した。


「鬼畜だねぇ」


近くで見ていたアムールは苦笑いだ。




各々買ったお菓子を持って、他の場所に移動する。


ショッピングエリアの少し外にある公園エリアのベンチで、彼らは少し休憩。


とはいえ、この時代の公園はほとんどが立体映像を固体化して作っている遊具とベンチや日差しを避けられるスペースがいくつかあるだけの簡素なものである。

子供達は遊んでいるが、遊具を使うことはほとんどない。


「じゃあ、やっていきますか。『甘すぎるそれにご注意を』」

「本当にやるの?」

「前にやってみたけどそこまで甘くなかった」

「それはティミーが甘党だからだろ」


ナーサが袋を開封する。


出てきたのは、ケースに入ったピンク色の個体が5つ。


「僕はやらないぞ、マジで」


トレーネが腕組みをしながら言う。


「へー、逃げるんだ」


フォンスが、笑っているのか蔑んでいるのかわからないような声で言い放つ。


「…………あ゙?」




「せーの」


5人は一斉に口の中にそれを放り込んだ。



「ん゙ん゙ぁぁぁぁぁ……」


予想通りの展開ではあるが、口に入れた瞬間、トレーネが声にならない悲鳴をあげる。


「くそっ……なんであんなバカの挑発に僕は乗っちまったんだ……」

「トレーネ、大丈夫? ゴミ袋あるから吐き出してもいいよ?」


アムールは余裕そうな顔だ。


「かく言うアムールは大丈夫なん?」


こちらも余裕そうなティミーが問う。


「多分、大丈夫なんだと思う」


トレーネの背中をさすりながら、アムールは答えた。


「え、僕も平気なんだけど」

「は? 俺も」


フォンスとナーサがびっくりしたような顔をする。


「「「「…………あれ?」」」」


4人の目線が一気にアムールの方へ向く。


「ん〜と……わかんないな。実は私、味覚狂ってるから味よくわからないんだよね」


「ちょっとやめよう。怖い、こいつ怖い」

「全員吐き出した方がいい」

「俺たちの味覚がバグってるっていう可能性もある」

「ていうかクソ甘党のティミーの可能性もある」


「あ! それじゃん! きっと私じゃないよ」



アムールはそう言うが、実際ハズレを引いたのはトレーネとティミーである。

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