第40話 桃太郎から見た話

まず、私たち桃太郎側から見た話をしよう。


『イザナギイザナミ伝説』は知っているか?


そうだ。国を産んだ2人だ。


イザナミが亡くなったあと、イザナミを追いかけて黄泉の国へとイザナギは足を運ぶ。

そこで腐りはてたイザナミの様子を目の当たりにしたイザナギは思わず逃げ出してしまっ

う。

それを見たイザナミは怒り、鬼と化け女たちに、追いかけさせる。


そこで、イザナギは、近くにあった桃の実を鬼たちに投げつけて、イザナミ達を追い払ったという。



これが、第一次桃鬼大戦だいいちじとうきたいせん

1人目の桃太郎は、イザナギだ。



そのイザナギの子供であるスサノオ、吉備津彦命きびつひこのみことが、2人目の桃太郎だ。


スサノオは温羅うらという鬼を朝廷から命令を受け、退治しに行った。

それはもう悍ましい見た目をした、巨大な鬼だった。


我が祖先は工夫を凝らし、必死にその鬼を退治したらしい。


これが第二次桃鬼大戦。



ここまでの話は知らない者も多いだろうが、ここからは皆が知る逸話の原型とか言われてるものだろう。



川に桃が流れてくるのだ。


それを川でお婆さんが拾う。


君は今、どんな流れを想像したか、当てて見せよう。


『桃を割ったら子供が出てきた』


だろう。


え? 当たり前だって?


何も当たり前ではないぞ。

よく考えてみてほしい。

桃から人が出てくる訳がないではないか。

あんな小さき果実のどこに赤子が入る空間があるというのか。


実際のところを言うと、お婆さんとお爺さんが、流れてきた桃を食べて、若返ったんだ。


それで……その……



これ以上話すとよろしくないんだが、まぁ、若返って元気になったお婆さんとお爺さんの間に生まれたのが、桃太郎だ。

決して桃から生まれたわけではない。



その桃太郎が3人目の桃太郎だ。


どちらが子孫であったかまでは記録されておらず、よくわからないのだが、お婆さんとお爺さんのどちらかが、吉備氏きびうじ……スサノオの子孫の家系の人でな。

その子供である桃太郎が子孫であるのは言うまでもない。


それで彼は犬・猿・雉と共に鬼退治にいく。


まぁ、お婆さんに恋した桃太郎が山でお爺さんを殺すという酷い都市伝説のような話もあるが……気高き我が子孫がそんなことをするはずはない。

退治したのは鬼ヶ島に住んでいる鬼だ。


それで、皆が知るように、3人目の桃太郎は鬼を退治し、財宝を持ち帰る。


これが第三次桃鬼大戦。


問題はそのあとだ。


悪鬼を退治したはずなのに、我が祖先は幸せな生活を送ることができなかった。

彼は優しかったから、鬼を殺すことができなかった。


生き残った鬼が雉を噛み殺したり、桃太郎の家に火をつけたり。

こうしてずっと、桃太郎のことを殺そうとしていたのだ。


それと、これは鬼には関係がないのだが、桃太郎の周囲の人々が財宝に目が眩み、とても醜い欲を持っていると、桃太郎は感じてしまった。


これらのことに耐えかねて、桃太郎は1人で都に旅に出た。


けれど、鬼たちの非道な真似はまだ続いた。


鬼たちは、その娘を、桃太郎のそばにいかせた。

彼を暗殺するために。


最初は人間のふりをし、桃太郎に詰め寄っていた彼女だったが、そのうちに、2人は

恋に落ち、結婚することになった。


ただ、鬼の娘は、親である鬼たちに『決して桃太郎を許してはならない』と小さな頃から教え込まれていた。


だから、恋心と使命の間で板挟みになり、この状況に耐えかねて、自害をしてしまうのだ。



娘の訃報を聞いた鬼は、怒り狂って、桃太郎の一族に、強力な呪いをかけた。


私は……これを金輪際、許すつもりはない。


『愛するものにその言葉を伝えれば、その相手が自害する呪い』だ。


愛がなくても、血を繋いでいくことはできる。


山桜桃家は、吉備家に女しか生まれなかった代にできた家で、現在の本家だ。

だから、呪いの影響を、一番強く受けている。



私は、この呪いで、1人……いや、2人殺した。



そのうち1人は、もう短い命であり、自ら死を望んだ人だった。けれど。


もう1人……私の母は、生きることを望んでいたはずだ!


私は、絶対に、鬼の一族を許さない……!

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