文化祭編

第21話 白雪姫たちの祭

「文化祭の出し物を決めたいと思いまーす」

「「「「「「「はーい」」」」」」」


やる気のない返事が、教室を舞う。


俺たちはきたる夏の文化祭、青林祭に備えて、出し物を決めることになった。


2000年代から続くこの、文化祭という文化。

文化祭のどのあたりに文化を感じりゃあいいのかわからないけど、この祭をやること自体が文化ってことなのかな?


まぁ、なんでもいいか。


「先生は黙ってるから、トレーネよろしく〜」

「え? あ、あ、はい、やっておきます」


予想外のフリに、動揺しながらトレーネが黒板の前に上がる。


この時代の黒板は、文字を書きやすいように、黒板の前の台の上が無重力空間になるようになっている。

トレーネは黒板の前にふんわりと浮かび、『出し物(案)』と書き込んだ。


「じゃあ出し物決めていきまーす」


「つっても何すんの?」


めんどくさそうなナーサの声。


「定番なのはカフェとかだよな」


おそらく何も考えていないであろうフォンスの声。


「私たち去年何やったっけ?」


おそらくちゃんと考えているであろう、アムールの声。


「確か展示やったんだよね。小さい頃からのアルバム作って」


楽しそうに言うティミーの声。


ティミーとアムールは、去年は模範集団エリーツにいなかったらしい。

今年、昇級してクラスがS組になったって聞いてる。


「楽しそうだねー! 今年はお店やるんでしょ?」


もっと楽しそうなサティちゃんの声。


「そうだね。どんな店がいい?」


さすがリーダー。トレーネがまとめる。







「ということで…………お前らが案出さないからこうなるんだぞ。今年の出し物は、くじ引きメイド・執事カフェです。くじ引いてください」






最悪なことになった。


くじ引きメイド・執事カフェとは。

クラスの人数分『メイド』と『執事』のくじを作り、同じ箱に入れる。

恐ろしいのはそこからだ。

男女関係なく、出たくじの指示に従った服装をするんだ。


そして、俺が引いたくじ。



『メイド』



あ゙ああああああああああああああああああああああああああ!

ふざけるなああああああああああああああ!


ただでさえ女の子みたいって言われてるのにこんな拷問ねぇだろ!

嫌だぁあ゙ああああああ!



くそ、言い出しっぺのナーサは⁉︎


「ヤベェ俺メイドだあああああ! 終わったぁああああああ゙!」


ザマァみろ俺に被害をもたらした報いだ。


「アザミちゃん執事⁉︎」

「勿体無い! こんなに可愛いのに!」

「そんなことないよ〜。みんなのこと見るの楽しみだな」


アザミさんは執事らしい。

あの人の場合どっちを着ても綺麗なんだろうな。



あっ、そういえば、ユータ! ユータは!


「おいルークス。見たいか?」

「当たり前だ見せやがれ」


ユータが見せてきた紙には……



『執事』



「交換しろこの野郎おおおおおおお!」

「ふははははは! 僕の勝ちだぁ!」


くっそ……



「やーいフォンスお前メイドー!」

「は⁉︎ ティミー執事なの⁉︎」

「うん」


こちらも同じようなことになっている。

けど、こちらの場合、ティミーの方がメイド服は似合っているはず。

ただ、面白いって言う面ではフォンスのメイド服は見てみたいと思ってた。



「え、アム執事⁉︎ うっわ……メイド見たかった……」

「そう言うトレーネこそメイドなんだね。」


相変わらず、あの二人は仲がいい。


アムールは、キャラ的にはかなり静かで可愛い感じの女の子で、一緒にご飯を食べたあの人たちの紅二点。

ティミーも女の子だからな。

ただ、兄3人と弟2人のいる家庭で育ったこともあって、男子勢の中にいることが多い。

髪型もショートカットで、中身に反して見た目はカッコイイ系の女の子って感じ。

トレーネは美形すぎてもはや女性に見えるけど、中身は完全に男子。

入試の時に使ったのは音楽だったけど、相当なイケメンだから、校内にファンクラブがあるらしい。

深い紫色の長髪を、大昔のお伽話に出てくる侍みたいに束ねてる。


あの二人、密かに付き合ってるんじゃないかっていう疑惑が浮上してるけど、あの様子じゃいつかは噂が本当になるだろうっていうのが、俺の予想。


ってか、あの2人なら完全に見た目は男女逆転できるな。



「え⁉︎ ルークスくんメイドなの⁉︎」


見事にメイドを引き当てたらしいサティちゃんが、笑顔で近寄ってきて言った。


「そうなんだよ……最悪」


この人にだけは見られたくないと思いながら俺は相槌を打つ。


「まぁでも、みんなでやれば、きっと面白いと思うよ! 文化祭楽しみだねぇ」


「……そうだね」


正直楽しみでもなんでもなくなったが、好きなことの会話ぐらいは幸せな内容にしたかったので、俺はサティちゃんにそう答えた。



こうして、俺たちの文化祭が幕を開けた。

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