第20話 青い子供の声

「てなことがあったんだよ」

「ほんと、ごめんなさいね。でもよくあの状況で演奏できたわね」

「いや、すごいですよ! よく対応できましたね!」

「本当です。その哀原って人、今頃幸せだといいですね」


二人は笑顔だった。

俺たちは、こうして、和やか……でもないけど、楽しい会話を楽しみながら、デザートのプリンを食べていた。


あ、そういえば、プリンって昔は3つ入りだったんだっけ。

現代のプリンは四つ入りだから、誰が我慢するかじゃんけんをする必要がない。

いい時代になったもんだな。



そんなことを考えていたそのときだった。


交流スペースの上の廊下から、足音が聞こえた。


最初に反応したのはアルマさんだった。


「デザートのあとに不味いものっていうのは、ちょっと頂けねぇな」


言っていることは冗談混じりだけど、表情と声は本気だった。


階段を下る音。

廊下を歩く音。


そして、


ドアを開ける音。


「誰だ!」




「え、いや……怖っ。天竹さん。ボク、冷蔵庫のプリン取りに来ただけなんだけど……この人たち、どうしちゃったの? って、あ! ボクのプリン!」


現れたのは、少年とも少女ともつかない人だった。

見たところ、俺と同い年くらい。

ブラウンの髪の毛はボブカットみたいに切られていて、着ている青色の羽織が印象的だ。

背は、俺よりちょっと低いぐらい。


「なんか最近、下の階が賑やかだなぁと思ってたんだ。なんか、入居者、たくさんいるみたいだね。おめでとう」


年上に対して敬語使えないタイプかよ……

ちなみに、声も中性的だ。

声変わり前の少年のような、声の低い女性のような、そんな声。


なんだろう、俺とは少し違った感じがする。


不服なことに、俺は女の子みたいって感じだけど、この人はどちらともつかないって感じだ。

なんだか、独特な雰囲気がある。


「ダメですよ、ドルチェさん! ちゃんとご飯食べてください。お米とか余ってるので、よければ一緒に食べましょう?」

「え、もらっちゃっていいの?」

「もちろんです!」

「ありがとう……」


どうやらこの人の名前は『ドルチェ』というらしい。

こうして会話しているのを見ると、ドルチェさんの方がサクヤさんより年上に見える。


「あ、ていうか……この人たちにご挨拶、ボク、まだしてないんだ」


そう言って、ドルチェさんがこちらに向き直った。


「ドルチェ・シンドロームっていいます。高二……のはず。捨てられたから、誕生日とかもよくわからないし、年齢も推測だから合ってるかどうか……」


こちらに向き直ったはいいが、誰にも目を合わせず、頭をかきながら、ドルチェさんは言った。

ってか、同い年ならタメ口、呼び捨てでいいか。


「かなり前から、ここにはお世話になっててね。天竹さんのおかげで生きてます」


「……サクヤさんに拾われた、ってこと?」


「あ……んと…………それはちょっと違うかな。んー……もうちょっと仲良くなったら話してあげる。まだ……その、ちょっとね。心の傷ってやつだから」


……なんだか、闇が深そうだ。


「今日まで、顔出さなくて、ごめん。あんまり人と話すの、得意じゃなくてね。経験が少なくて。本当は三号室に住んでたんだ。よろしく」




今日だけで初対面の人が二人。

楽しかったけれど、なんだか疲れた。

心は疲れていないけれど、体の疲労感が強い。


そのおかげだろうか。

その日、俺はかなりぐっすり眠ることができた。

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