第19話 ラプンツェルたちは語りたい
「アナタ、演奏の腕は第一ヴァイオリン級だけど、姿勢が成ってないわね」
俺は、研修初日に担当官の人に、そう言われて衝撃を受けた。
昔、中学高校と、ずっと入ってた吹奏楽部。
強豪校で6年間じっくり極めたヴァイオリン。
その時に買った自分のヴァイオリンを実家から引っ張り出してきたのに、腕じゃなくて姿勢を問題視されるとは……
てか、衰えてない俺ってちょっと凄くね?
「まぁ、奏者としての心得……みたいなものかしら? 姿勢はとっても大事よ?」
この、オカマ口調で、髪は染めてるのが普通なこの時代でも珍しいピンク髪の変な人が自分の担当官だと知ったとき、俺は衝撃を受けた。
着ている黄色のシャツはよく似合っているが、かなりがっちりした体格の人なので、少し面白くなってしまう。
現在、第一ヴァイオリンで主席奏者をやっている人らしい。
マドカさんが『この人本当にすごいのよぉ!』って言ってたけど、本当なんだろうか。
「アタシとしては、演奏はプロ級……上出来だと思うわ。そうね、アナタの研修内容は、姿勢メインよ。わかったわね? これからは師匠とお呼びっ!」
…………マジかよ……
その日から俺はリアムさん改め、師匠の研修を受け始めた。
まずは演奏のレッスン。
「やっぱ、アナタ、いい男ねぇ。いい演奏するじゃない! ……ただしねぇ…………」
そして、そのレッスンそっちのけで始まる………
「アナタ見せ方がヘッタクソなのよ! いい男が勿体無いわよ! もうちょっと感情豊かに動いてごらんなさい! 微動だにしない奏者が聞いている人の心を微動させられるわけがないじゃない!」
身体の使い方や表情の指導。
それから、2時間くらいぶっ続けで演奏練習をした後、休憩中に演奏していない時の振る舞いの矯正が入る。
「いいかしら? 自宅では知らないけど、せめてここでは綺麗な姿勢を保ちなさい。休憩中もよ。わかったわね。」
こうして、師匠の約3週間にわたるスパルタ研修と、俺たちが働いている式場である、『リュカ・フェリーチャ』でのヴァイオリニストオーディションに合格したとき、俺はきっとすごく紳士的なやつになっていたんだと思う。
ルークスに『アルマさん、この頃、いい意味で雰囲気違くないですか?』って言われたくらいだからな。
「アルマくん凄いわねぇ! 初演奏から第一ヴァイオリンなんて!」
「いえいえ……」
俺の初仕事の手配をしてくれたマドカさんは、当日にすごく褒めてくれた。
こうして俺にとっては初演奏の日である、『哀原ドリュー』様御一行の挙式の日になった。
その日、俺の演奏する席の隣に、意外な人物がいた。
「まさか、アンタが初日からアタシの隣で演奏するとはね。手間かけさせるんじゃないわよ」
師匠だった。師匠は、隠しているみたいだけど嬉しそうだ。
「わかってますよ、師匠」
俺がそう言うと、師匠は俺の頭を軽く小突いて、
「もう同じ場所で働いてるんだから『師匠』じゃなくて『リアムさん』とお呼び。アタシも『アナタ』のこと、『アルマ』って呼ばせてもらうわよ。」
と言った。
俺は『はい!』と返事をして、師匠改め、リアムさんの横の椅子に腰掛け、ヴァイオリンを構えた。
神父の前に新郎が立つのを見計らっていた指揮者の腕が上がると同時に、俺にだけ聞こえた音があった。
「ラプンツェルの子孫の方、シンデレラの子孫の方! お二方はどこですかァッ⁉︎ いるなら出てきてください! この前の続きです! 遊びましょうよ!」
前に、パイプオルガンを壊した
これはかなりまずい。
今、ナイフ投げを得意とするあいつがここに入ってきたら、周りにも危害が及ぶ。
完全に式が台無しだ。
俺は演奏をしながらタイミングを見計らった。
よし、8小節後に2小節の休みがあるから、そこでこっそり、上着に隠したラプンツェルを食べよう。
そう思ったけど、その前にマドカさんが動いてくれていた。
『気にしないで演奏して』
マドカさんは声には出さずに口だけ動かして俺に伝え、ハイヒールの布を解いて外に出た。
「あなたしつこいわよ! 人が人の人生の1ページを作ってるってときに、邪魔しないでくれるかしら⁉︎」
私は
「いえいえ、あなたがたが今日亡くなれば、僕にとっては人生の大きな1ページになりますよ」
綺麗な銀髪を光らせながら、
それと同時に、私は、
–––––––シンデレラが、『なぜ私は舞踏会へ行けないの? 3日間、お姉さまたちは王子様と楽しく踊っているっていうのに、なぜ私はずっと一人で働かなくてはいけないの?』と言いながら、お母さんの墓に植えてあるハシバミの木の前で泣いていると、そこに白い鳩がやってきました。なんと、その鳩は、嘴にドレスや靴を咥えていたのです。
「鳩さん、力を貸して! あの人はナイフを投げてくるの!」
一晩目の鳩が運んできた靴は銀色だから、今呼んだ嘴が銀色の鳩たちは、1番弱いの。
この子たちは私と同じくらいの力を持ってるのよ。
「そんな鳩たちに何ができるって言うんですか? 遊び相手にもなりませんよ!」
前と同じようにナイフを投げて、突撃してくる一晩目の鳩たちを殺しがら、
「そのくらいわかってるから安心なさっていいわよ!」
私は2晩目の鳩を呼び出した。
この子たちの嘴は金色。
この子たちの嘴が金色なのも、運んできた靴が金色だったからよ。
この子たちの持つ力は、私の10倍。
私は鳩たちに合図を送って、鳩たちを
だけど、そこまで辿り着いて攻撃を加えられたのは一羽だけだった。
「なかなかの力ですね! ただこっちがは遠距離攻撃ができるので、いくらでも殺せますよ!」
次々と鳩が死んでいく。
久々ね、この感じ。
いつもの人たちなら二晩目の鳩たちで逃げ出していくのに。
この人は相当強いみたいね。
なら最終兵器を出しましょう。
私は靴を脱いだ。
–––––––王子様は、わざと階段にピッチを塗って、シンデレラを転ばせ、金の靴を手に入れて、持ち主であるシンデレラを探しました。シンデレラの家では、どうしても王子の嫁になりたかった長女は爪先を、そして次女もかかとを切り落としました。
「うあァァッ!」
一度でも私の鳩に触れたら……
私が鳩を呼べるこのチカラを使いながら、ガラスの靴を脱いだとき、その人の足には長女と次女の、足を切ったときの感覚が伝わるようになっているの。
アルマくんには申し訳ないわね……
パイプオルガンのとき……きっと髪の毛が鳩に触れていたはず……
痛ぇ! なんだこれは⁉︎ 足に激痛が⁉︎
だけど、それでも俺は演奏を続けた。
新婦がバージンロードを歩き終わり、誓いの言葉に入る。
その間も、俺は激痛に耐えつつ、指揮を見ながら必死に演奏を続けた。
私は
そして走る私の隣には二羽の鳩。
–––––––靴が足にぴったりとハマり、シンデレラは見事王子と結婚することになりました。シンデレラの結婚式で、意地悪な2人の姉は、図々しくも、シンデレラの両脇に座りました。そのとき、真ん中に座るシンデレラの肩に、二羽の鳩が止まりました。
「かなり痛いから、本気で避けることね!」
私はそう言いながら、両手を
–––––––そして、両肩に止まった鳩たちは、姉たちの両目をくり抜いてしまいました。
「ごめんなさい! 眼球復旧手術はご自分で!」
私がそう言うと同時に、鳩が
「いやぁ危なかった」
貫いていたのはその人の腕だった。
鳩が突っ込んでくる直前に、目を腕で保護したみたいね。
「僕は今日はもう遊べそうにないです。また今度」
そして、その人は消えていった。
芝生が血まみれね。片付けなくちゃ。
謎の足の激痛も治まり、新郎新婦の誓いのキスのシーンになった。
指揮が段々と大きくなっていく。
俺たちの演奏も大詰めだ。
外側の警備までプロデュースしてしまうとは……流石です。
マドカさん。
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