第18話 シンデレラたちは語りたい

ということで、食事が始まった。

先程アルマさんが作り上げたポトフが、いい香りを漂わせている。


「こんな大人数でご飯を食べるなんて久々! それに鍋なんて学生時代ぶりねぇ。あれからもう何年かしら?」

「計算したら、歳、バレますよ。」

「大丈夫です!100歳までなら隠さなくても若いですから! わたし、今年で361歳なので!」

「わざわざ言わなくてもいいじゃないですか」

「「「「はははッ!」」」」


そんなふうに会話をしながら、俺たちは鍋をつついていく。

アルマさんの箸の進みがいつもよりゆっくりだ。

きっとマドカさんがいるからだろう。

好きな子と一緒にいるときは、会話したくなっちゃうから、箸を進めるの、ちょっと遅くなるよな。


あ、そういえば……


「そういえば、マドカさんってどこで働いてるんですか?アルマさんが転職先でお世話になってるって言ってたんですよ」


俺が尋ねると、マドカさんはわざわざ箸を止めて答えてくれた。


「私? アルマくんとはちょっと違ってね。結婚式場でブライダルコーディネーター、もっと簡単にいうと、ウエディングプランナーっていう仕事をしてるの。結婚式の計画係みたいなものかしらね」


「いやぁ、負担のかかる仕事なんだぜ。挙式から披露宴、料理、花、写真、衣装、ヘアメイク、引出物の提案・手配から金銭的な調整に当日のアテンドまで、結婚式をトータルでプロデュースするんだからな。選ばれた人間にしかできないことだぜ」


アルマさんはうんうんと頷きながら、さらに続けた。


「そんなことはないわよ。ルークスくんだって、ちゃんと勉強すればなれるのよ?」


マドカさんは俺に向かってウインクを一つ送ってきた。

そして送られてきたのはマドカさんのウインクだけでない。

その横からアルマさんの得意技『蛇のように睨みつける』も送られてきた。


「じゃっ、っじゃぁ! アルマさんは何をしてるんですか?」


このままでは俺が大変なことになるということを悟ったサクヤさんが、急いで話題を変えてくれた。


「俺か? 俺は演奏者。ヴァイオリニストやってるんだよ」


サクヤさんの言葉に、アルマさんの表情は穏やかに戻った。

ありがとうサクヤさん。


「ほんとすごいのよ? 急な曲の変更とか、当日の要望に対応できるように、はじめて楽譜を見て演奏する技術があるらしいのよ! 素人には絶対できないわ。それに、映画のクライマックスのバックミュージックは必ずサビの部分が流れるでしょ? これは、観ている人の心を盛り上げて、心に残るシーンにするためじゃない? 結婚式を映画に見立てたとして、誓いのキスは、映画の大切なワンシーンだから、ただ曲を演奏するんじゃなくて、時間とタイミングを考えて、キスの瞬間がクライマックスに重なるよう演奏するのよ。私、近くで見ててびっくりしちゃった! アルマくん、研修終わってすぐの初演奏で第一ヴァイオリンやっちゃうんだから!」


マドカさんは、頬に手を当てて、すごく楽しそうに語った。

アルマさんは、照れ隠しなのか、ポトフの汁を啜っている。

ただ、表情は満更でもなさそうだ。


「そういえば、今思うと初演奏はハプニングだらけでしたね」


アルマさんが微笑しながら言った。


「そうだったわねぇ。よく演奏中に対応できたわね、私たち」


カップに入った紅茶をすすりながら、マドカさんは、苦笑いで相槌あいづちを打った。


「何かあったんですか?」


サクヤさんは興味津々といった様子だ。


「あらぁ、訊いちゃう?」

「そうかぁ、訊いちゃうかぁ……」


そして2人は、はちゃめちゃな1日のことを語ってくれた。

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