第17話 白雪姫に隠せよと
「じゃあな!」
「また明日ね!」
「気をつけて帰れよ!」
いつもの3人の声が、黄昏の空に響いた。
俺は、一日中つまらない授業を受けて、ユータの家でアザミさんも呼んでゲームをして、帰り道に襲ってきた
そういえば、今日の晩飯当番はアルマさんか。
いつも仕事が忙しくて、帰ってくるのは10時頃のアルマさんが、必ず帰ってくるのが、この当番制のいいところだ。
だけど最近、この当番制がなくても、アルマさんが帰ってくることが多くなった。
まぁ、ほんとについ最近のことなんだけどね。
なぜかはわからないけど、アルマさんが最近変わったところは、他にももっとある。
ここのところ立ち振る舞いがすごくキッチリしてるんだよな。
ちょっと猫背っぽかった背筋が、ピンと伸びるようになったんだ。
それに、今まで聞こえなかった音色の音楽が、隣の部屋から聞こえるようになった。
ヴァイオリンの音色だ。
いつも聞こえてくるのは、ロック系かポップス系のギター演奏だけど、ここ最近はゆっくりとした音楽をヴァイオリンで弾いてる。
ほんと、どうしちゃったんだろうな。
そんなことを考えつつ、部屋のロック解除用リングを指にはめたとき、いつもとは違う風景が、俺の目には映った。
四号室に、金髪で肩の出た水色の服を着ている、めちゃくちゃ美人な女の人が、段ボールを抱えて入っていったんだ。
俺は荷物を持ったまま、一階の交流スペースに飛び入った。
美人とはいえ、泥棒とかだったら大変だ。
「サクヤさんいます⁉︎ 四号室の人って入居者の人ですか⁉︎」
俺は部屋に入った瞬間に言ったけど、その部屋には、サクヤさんではなく、奥にある厨房でじゃがいもを乱切りにするアルマさんがいるだけだった。
「んあ? 四号室の人?あ〜、マドカさんのことか。俺、最近転職してな。その転職先でお世話になってる人なんだ。すごくいい人だから、ルークスもきっとすぐに仲良くなれるんじゃないかと思うぞ」
アルマさんは、俺に背を向けたまま話していた。
そして、切り終わったジャガイモを鍋に入れ、今度はニンジンを切り始めた。話し方がいつもより少し明るいのが、俺にはわかる。
よし、最近古文で習った、令和時代の言葉を使って聞いてみるか。
「ほぉ〜………アルマさん、いわゆる『リア充』ってやつですか?」
俺がそう言うとアルマさんは、
「はァッ⁉︎」
と動揺して、持っていた包丁を、キッチンマットの上に落とした。
そして、顔を真っ赤にしながら
「いっぃや違う違う違う! マママママ、マ、マドカさんが俺のかッ、彼女とかそんな
そこまで言ったとき、アルマさんはやっちまったといった表情で、口元を抑えた。
アルマさんが今、付き合えたら嬉しいって言ったのを、俺が聞き逃すわけがないということを、この世の誰が否定できるって言うんだろうか。
アルマさんは、軽く頭をかくと、床に落ちたままになっていた包丁を拾い、軽く洗った。
そして、それを高く振り上げたかと思うと、まな板の上にある半ニンジンを、ダンっと大きな音を立てて真っ二つにした。
そして、蛇のような目で、こちらを振り返り、氷のような声で言った。
「おい、ルークス」
「ひぇい!」
俺は、アルマさんと最初に出会ったときに感じた恐怖を思い出し、声がうわずった。
「お前がマドカさんにさっきのことを言ったときは、お前の体がこうなるときだからな。覚えておけ。絶対に言うなよ」
「……はい、はい! 言いません! 神に誓って絶対に言いません!」
こうして、今日の夕飯である、アルマさんの作ったポトフが完成した。
俺は、いつも通り、三号室にいるサクヤさんを呼びに行って、そのあと水道に寄って手を洗ってから、自分の席に着いた。
自分の席の向かい側には、今までなかった席が足されていた。
これがきっとマドカさんの席なんだろう。
そんなことを考えていると、交流スペースに、アルマさんと一緒に、さっき見かけた女の人がやってきた。
その人は、俺と目が合うと、
「こんばんは! あらぁ? そこのボクは初めましてね? 私、マドカっていうの。新しくここに引っ越させてもらってね。今日からよろしくね」
と、美しい笑顔で言った。
うん。
アルマさんが好きになるのも納得の笑顔だ。
美人すぎる。
こうして雑談している間に、サクヤさんがやってきた。
「えっと、遅くなっちゃいましたね。ごめんなさいです。それじゃあいいですか?」
「せーの」
「「「「いただきまっす!」」」」
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