第22話 白雪姫の秘密

「あー…………ダル」


青林祭当日。

屈辱的だがメイド服を着た俺は、そう呟いた。


「まぁいいんじゃない? やはり野に置け蓮華草って感じで、よく似合ってるぞ?」


見事なまでに執事の衣装を着こなしているユータが、俺の肩に手を置いて言った。


「うるせぇな! 蓮華草だか月見草だか知らないがお前には似合ってるなんて言われたくねぇよ!」


不服なことに、実際、今のユータはカッコよく見える。


その、ブラウンの少し縮れた前毛はセンター分けにされてて、その下にかけている黒淵の丸メガネが、その知的さを表している。

これまた不服なことに足も長い。


the 執事って感じで、しかもクラス内での指名も少し多くて、ちょっと人気があるから、もはやホストみたいになってる。


「くそ、交換しろ、マジで」

「お前こそアザミさんと交換してこい。ふざけんな。俺はあの人のメイド姿が見たかった」


アザミさんはユータ以上に執事衣装を着こなしている。

いつもはハーフアップにしている髪を、今日は低めの位置でカッコよく縛っている。


「2名様、ご来店ですか?」

「私たちがご案内いたします」


アムとトレーネは、現在、男女逆転してるのバレるかバレないかチャレンジ中。

今のところはバレてないらしい。


「「お帰りなさいませ、ご主人様ぁ」」

「ふっはははははははっ!」


ナーサとフォンスのメイド姿は、笑えるっていう意味でかなりウケている。

2人とも完全に男性の骨格をしてるから、相当面白い。

あいつらがヘイトをで稼いでるおかげで、俺はあまり見られずに済んでる。




そういえば。


サティちゃんは、実は料理が得意らしく、いつも通り、ツインテールをぴょこぴょこさせて、キッチンで忙しそうに働いてる。


…………けど。


俺は。


『ねぇ。当日、一緒に周りたいんだけど……どうかな?』

『うん! もちろんいいよ!』


こんな会話をすることに成功したんだ。






「ルークスくん、お待たせ! 着替える時間なくて……このままでいいかな?」

「もちろん。よく似合ってるから、そのままで」

「えっへへ……ありがとう!」


はい、可愛い。


黒の、フリルが少なめの派手すぎないメイド服。

他の子よりもちょっと短めのスカートの裾についたレースが、本当によく似合っている。

うちのクラスのメイド勢の中で一番可愛い。


「えっと、じゃあ、何処から……」

「あ、あたしね! 行きたいところがあってね! それに、話したいことも……」

「そうなの? じゃあ、そこにしよう」




こうして俺とサティちゃんは、何故か、誰もいない体育倉庫にやってきた。


サティちゃんは、こちらに背を向けたまま。


話があるって、なんのことだろう………


そんなことを思っていると、後ろをむいていたサティちゃんが、

「えっとね、ルークスくんに話があってね」

こちらに振り返りながら、そう言った。


俺は何を言われても頭がパンクしないように頭を構える。


「これを食べてみて欲しくて………」


サティちゃんが俺に差し出したのは、小さめの箱だった。


「さっき、あたし、キッチン係だったでしょ? だから、その……隙を見計らって、カフェのメニューにはなかったけど、アップルパイ、作ってみたんだ。あのね、果物屋でリンゴ、たくさん買ってるの見かけて……好きなのかなって思って……」


…………アップルパイ…………ね……


ここで俺が白雪姫の子孫だってバレるのか……

付き合うところまで行ってから言おうと思ってたんだけどなぁ……


だけど、好きな子からもらったお菓子を突き返すわけにはいかない。

それに、どうせいつかは伝えるつもりなんだし。


「ありがとう!嬉しい!」


俺は全力の笑顔で、アップルパイを受け取った。


「ほんと?よかったぁ〜」


俺はアップルパイを口に運んだ。


…………しょっぱい。

砂糖と塩を間違えてる。

だけど、リンゴがかなり甘く煮てあるから、甘じょっぱいご飯系のパイを食べている感覚になった。


そして、俺は、小人たちを呼ぶときの、少しふわふわした感覚にもなっていた。


「ご馳走様。美味しかった。ありがとう!」


最後の一口まで残さずに食べて、俺は言った。


今、食べたパイに入ってた林檎は何切れだったんだろう?


周りを見渡すと、赤以外の6人がいた。





……なぜだろう。

サティちゃんは、ビックリしていない。


平然とした目でこっちを見ている。


「やっぱりそうなんだね。あたし、知ってる。ほんとに小人を呼べるのか確かめたくて、わざとアップルパイを作ったんだよ」


「………え?」


…………なんで?


「つまりさ、ほんとに、がずっと探してた、白雪姫の子孫なんだね」


「……そうだよ」




「だとしたらね、あたしはね。本当に申し訳ないんだけどね。君を…………殺さなきゃいけないんだ」




「……どういうこと…………?」


「あたしはね、こういう者なんだ。」


サティちゃんはそう言うと、メイド服を脱ぎ捨てた。


その下から現れたのは、いつものパーカー。


サティちゃんは、パーカーのフードを被った。

すると、手元に、2本のハサミが現れた。


「赤倖美サティ・ユーリ。赤ずきんの子孫。所属部署は悪役ヴィラン第4部隊大佐。管轄は、白雪姫の子孫。つまり、あたしは、君を殺すためにこの学校に入学してきたんだよ」


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