第23話 赤ずきんのハサミ
サティちゃんはそう言うと、不穏な笑みを浮かべて、俺に襲いかかってきた。
両手に持ったハサミで、周囲の道具が音を立てて倒れることも気にせず、歪で読みづらい動きで切りかかってくる。
うまく避けきれなかった斬撃が手に当たって、血が流れる。
流石の運動神経だ。全国3位なだけある。
「ルークスくんは、赤ずきんの原型を知ってる?」
「知らない! 君が赤ずきんの子孫ってことも初めて知った!」
俺は右から飛んできた蹴りを受け止めながら答えた。
狭い体育倉庫の中で戦っているから、足が重い。
「あのね、赤い頭巾なんて被ってないんだよ! おばあさんのことだって、赤ずきんちゃんが食べちゃったんだよ! オオカミだって死んでないんだから!」
「どういうこと? それだけじゃわからない!」
俺はサティちゃんが傷つかないように気をつけながら、彼女の足を弾きながら言った。
足を弾かれてバランスを崩しかけたサティちゃんは、2連続のバック転で俺と距離をとり、話し始めた。
「じゃあ教えてあげるよ。ある女の子がおばあさんの家を訪ねます。その間にオオカミは、おばあさんを殺して、血は瓶に入れ、ワインのラベルを貼った。肉は焼いて、ラム肉と一緒に戸棚に入れます。そしてオオカミは、そこへやってきた赤ずきんに、それを食べろと言います。赤ずきんが美味しそうにそれを食べる様子を見たオオカミは、赤ずきんに裸になってベッドに来いと言います。その後の会話は知ってるでしょ? 赤ずきんは、どうして口が大きいのか訊いたとき、自分が喰われるって気づいた。だから、トイレに行きたいって言って、森に逃げたんだよ」
「それを俺に教えてなんになるんだ⁉︎」
サティちゃんは、俺の質問には答えずに、再びハサミを振りまわし始めた。
「君だって一族に伝わってるんでしょ? 白雪姫の真実が!」
「だからなんなんだ⁉︎ 俺には君が何をしたいんだかわからない! 第一、なんで俺が殺されなきゃいけないんだ!」
俺がそう言うと、サティちゃんはハサミを持った手を止めて、再び蹴りを入れてきた。
俺が防いでいる間に、サティちゃんは言う。
「あたしたち『
悔しそうな声でそう言ったサティちゃんは、涙目で、ハサミを持ち直して、殺しにかかってくる。
「そのせいで、この世には夢も希望もないって知った! だけど、そんな世界は間違ってる! 面白くない! だからあたしは、真実を知ってる君たちを抹消するために、この原作なんて知りもしないで勘違いをしたままの幸せな世の中が永遠に続くように、君を殺しにきたんだ!」
そう言った必死なサティちゃんのハサミが、俺の右足を貫通した。
「あたしはどうしても嫌なの! あんたらみたいに、いくら原作に遡っても主人公は幸せになる話の癖に、身を守るとか言って、ちゃんとした能力を持ってるやつが、たまらなく許せないの!」
その言葉が最後に聞こえてきて、俺は意識を失った。
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