第38話 鬼退治
悪鬼…………⁉︎
こいつ、ドルチェの事情を知ってるのか⁉︎
高い身長に、道着と竹刀。
明らかに剣道部の服装だ。
垂れには『山桜桃』の字。
きっとあれが名字なんだろうけど、なんて読むのかはわからない。
ドルチェに襲い掛かってるのは、そんな人だった。
「おい! 大丈夫か!」
俺が近寄ると、ドルチェが、俺に向かって右手を突き出した。
「ごめん。これは……僕の事情。だから、来ちゃダメ」
ドルチェは、そう言った瞬間、羽織に付いているポケットから、二つの『尖った何か』を取り出した。
「外にしよう。ここじゃあ、他の人たちまで危ないから。とりあえず、連れて行きます」
そして、その『尖った何か』を頭に装着した。
……ツノってことか⁉︎
そう思った、そのとき。
ドルチェはドアから飛び出して、上方向に一気に飛んだ。
武道場は、校舎のすぐ隣にある。
通路を一つ挟めば、6階建ての校舎がすぐに顔を出す。
……つまり…………ドルチェは屋上まで一気に登ったってこと。
俺が急いで外に出て上を見たら、もうドルチェの姿はなかった。
まずいな。追い付かねぇと。
俺は急いでエレベーターに乗って、屋上まで向かった。
追いついた頃には、2人はもう取っ組み合いをしていた。
何故か、彼が持っている竹刀が、ピンク色のオーラをまとっている。
「お前らが……お前らさえいなければアマネは…………! 私の一番大事な人は……! 許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない!」
アマネ……?
竹刀を振り回すその一手一手が、力強いけど丁寧で、綺麗で、つい見入ってしまう。
「……でもね、それはボクがやったことじゃない」
山桜桃と書かれたその人の、竹刀の斬撃をかわしながら、今まで聞いたことがないぐらい暗い声で、ドルチェが言った。
ドルチェは、避けるだけで絶対に反撃をしない。
「ほざけ! 貴様ら一族がやったことだ! 貴様ら全員の血で償え! それが出来ないなら……」
山桜桃の彼が、大きく竹刀を振り上げる。
「死んで詫びろ!」
ドルチェは、真正面から、その全力の斬撃を受けた。
額から、血が流れている……!
そのあとも、その人が容赦なくドルチェを痛めつけていく。
そろそろ助けに行こうと考えたとき。
「…………いい腕前だね。あいつにそっくり。僕たちを傷つけるだけ傷つけて帰っていった、あの悪魔にそっくり……」
ドルチェが、傷ついたその左腕で、竹刀を掴んだ。
「は…………?」
竹刀を動かせなくなったようで、彼の体も動かなくなった。
「知らないの? 自分自身の話でしょ? 君たち一族がやったことだよ。君たち全員の血で償えよ……」
ドルチェは下を向いたまま、静かに言う。
「それが出来ないのなら……なら……!」
「お前だけでも、くたばっちまえ!」
ドルチェが、その左腕で、握りしめた竹刀を折った。
そして、その左腕には、青色の模様が走っていた。
『ボクの先祖は青い鬼だったんだろうね。鬼だった頃の名残がまだあって、青い鱗みたいなものが、所々残ってるんだ』
退院してすぐに聞いた、ドルチェの言葉が、頭によぎる。
けれど、ドルチェの左腕を包むそれは、鱗というよりタトゥーに近かった。
流水模様がベースになっていて、その上に、彼岸花と、そして二匹の蝶。
全部青色で描かれている。
そんな感じの、綺麗なタトゥー。
それを見た山桜桃の彼は唖然とした表情をしている。
「あのねぇ……不幸になってるのは君たちだけじゃないの」
そう言った、ドルチェの口の周りにも、流水模様が走る。
そして、いつの間に声変わりが始まったんだろうか。
声が、青年に近い、低いものになっている。
それに、ついさっきまで俺より少しだけ高いぐらいだった身長が、いきなり伸びた。
こいつ、男だったのか……?
それを見た瞬間、一度は怖気付いたけれど、山桜桃の彼が動き出した。
「
短くなった竹刀の切っ先が、空を切った。
下から上への
ドルチェはものともせずに、ひらりと避ける。
……最近の剣道部は技名まで言うのか?
絶妙にダサい気がしたが、火に油を注ぐだけだ。
言わないでおこう。
それからも、彼の斬撃は、横から、上から、下からと続く。
相手はすごく全力に見えるけど、ドルチェは、軽く受け流している。
「……甘い」
ドルチェがいきなり竹刀を蹴り上げた。
山桜桃の彼の手から、竹刀が飛んでいく。
「
静かにそう言いながら、ドルチェが胸の前で腕をクロスし、両手の人差し指を口のすぐ近くに寄せた。
口は『い』の形。
手を崩すと、そこに現れたのは、昔話に出てくる、鬼が持ってるような金棒だ。
山桜桃の彼が、それを見て跳ね除ける。
けれど、それよりも素早い動きでドルチェが、彼に近寄り、金棒を大きく振り上げた。
「
それは、綺麗な曲線を描き、彼の頭に命中した。
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