第28話 白雪姫は苦労人 (中編)
そして俺はいつどこで食べるのか執拗に聞いてくるユータに20分後に2階の中庭でと伝えて、弁当を手に10分後に屋上へ向かったのだった。
アザミさんは俺と2人でいるところはあんまり見られたくないだろうし。
そんなことを考えていると、アザミさんが自分の髪よりも少し薄い赤色の弁当箱を持ってこちらにやってきた。
「あ、えっと、ルークスくん! さっきはごめんね! 友達に誘ってこいって言われちゃって……迷惑だった?」
「あ、いや、そんなことないよ? 逆に誘うの俺なんかでよかったの?」
「そんなそんな! えっとね、仲良しなグループの中でこの前のテストの点数が一番悪かった人が、罰ゲームで一番仲のいい『心が異性の人』と一緒にお弁当を食べられないか誘うっていうものだったんだけど……」
「あ、そうだったんだ。ありがとう。」
「うん!」
しれっと一番仲がいい異性認定されていることを知ってしまったがまぁそれは置いといて今は飯を食おう。
「「いただきますっ!」」
弁当を食べてるときに気づいたのは、アザミさんの髪の色は名前の通り薊色なんだけど、目の色は円熟した青っていうか……
セミロングくらいの長さの髪をハーフアップにしてて、髪の先になるにつれてウェーブしてる。
髪留めも15個の小さな白のアザミの花と目の色と同じ色のリボンがついた髪留めをつけてる。
あともう一つ気づいたことがあって……
あ、そういえばこの青高、何を特技として入学したかによって制服のカラーが違うんだよ!
俺のカラーである強さはペッパーレッドで、アザミさんのカラーである美しさはパンセ、ユータの勉学的頭脳はラピスラズリー。
で、改めてアザミさんの何に気づいたかっていうと、この学校って自分のカラーを服装のどこかに取り入れることがルールになってるから私服登校アリで、制服着てない生徒が多いんだけど、アザミさんはスカートと靴下は制服のものを使ってるんだなってこと。
えっと……こうやって気づいたらその人をじっと見て人間観察しちゃうのは俺の悪い癖であって、ただジロジロ見てるわけじゃないんだよ?
っていうことをアザミさんが知っているわけもなく、
「あの……そんなに見られるとちょっと恥ずかしいんだけど……」
真っ赤になって箸を止めて俯いてしまった。
「あっ、ごっ、ほんとごめん! あの、その髪留めが綺麗だなって思って!」
俺は言い訳が思いつかずそんなことを口走ってからサクヤさんが炊いてくれた米を口の中にかきこんだ。
絶対にキモいと思われただろ今のは……
けど、アザミさんをチラッとみると、俺の予想に反してニコニコ笑顔だった。
「ふふっ、ありがと。私の名前の由来にもなった、白のアザミの花言葉はね、自立心と独り立ちっていう意味があって、あっ、造花なんだけどね? 私の自立がいいものになるようにっていう願いを込めて、誕生日を迎えるたびに家族が新しく足してくれるの。それでね、あの、いきなりなんだけど……」
そこまで話すと、アザミさんはスカートについたポッケを漁り始め……
「実は私、明日が誕生日なの。ルークスくんにこれ、足してほしくて」
こう言うと同時に白のアザミを取り出して、俺の方に差し出した。
「ずっと前からルークスくんのことが好きだったの。その……誕生日にこの花をつけてくれるのは私の家族だ……って、さっき言ったでしょ? つまりその……そういうことなんです」
アザミさんはそう言うと、また顔を真っ赤にして俯いてしまった。
……は⁉︎
俺っ、いまっ⁉︎ え⁉︎ 何⁉︎ プロポーズされたの⁉︎
えええええええええええええええええええええええ⁉︎
おそらく日本で一番綺麗なあの子に⁉︎ アザミさんに⁉︎
……いや、とりあえず冷静になろう。焦ってても何も決まらない。
俺は、恋愛的な話なら、アザミさんのことは嫌いじゃないし好きでもない。
正直に言っちゃえば好きになっちゃいけない気がしてたっていう感じなんだけど。
俺はこの人と釣り合うような見た目はしてないし、頭も悪けりゃ身長も低い。
だから、宿泊学習のとき、アザミさんが俺のことを好きだってユータから教えてもらったときから今まで、アザミさんにはもっと合った奴がいるだろうし、恋愛的な意味では好きにならない方がいいって思ってた。
けど、アザミさん自身が俺を望んでくれてるってことは、それはきっとアザミさんが俺のことを『この人なら自分に釣り合っている』って判断したってことなんだろう。
………………
ユータはきっとキレ散らかすと思うが、ちゃんと説明すれば『仲人は俺だからな⁉︎』ぐらいで済むだろう。
周りの目は……きっとそこまで気にしなくて大丈夫かな。
いつもそうだけど、
そうなると1番の問題は……
俺が白雪姫の子孫であること。これが一番重要だ。
かなり先を見通した考えになるが、もし俺がアザミさんと結婚し、子供ができたとしよう。
いくら白雪姫の血が薄くなっていて、俺たちの子供に能力があろうと無かろうと
俺がいないときにそうなったとき、きっとアザミさんは自分の命を賭してでもその子供を守るはず。
……それは怖いし、嫌だ。
俺は、今はアザミさんのことを友達としての『大事』だと思ってるけど、きっとそのそのうち、今ここでこの花を受け取ったら、それとは違った『大事』に変わるんだろう。
俺はこの前、その『大事』に傷つけられたから、その痛みを知ってる。
……うん。やっぱりこの花は断るべきだ。
この『大事』は『大事だった』には変えたくない。
かなり飛んだ妄想かもしれないけど、こうなる可能性だってないわけじゃないんだ。
それに……サティのこと。
本当に諦めたわけじゃない。
希望があるかもって、まだ思い込んでる。
そんな状態で、本気の彼女に向かい合うっていうのは、かなり失礼じゃないのか?
というか、一番最初に考えるべきなのは、そこなんじゃなかったのか?
ちょっと考え込んじゃって少し待たせちゃったけど、アザミさんはその浅縹色の目で、まだ俺の方を見ていた。
こう言うときに目を離すのは、絶対にマナー違反だっていうのは、俺でもわかった。
「ごめん、俺は、この花は受け取れない。」
「え……なんで?」
「ちゃんと理由もある」
「どうして……?」
この人にならカミングアウトしても問題ないだろう。
今ここで話しても、きっと、わかってくれる気がする。
「俺、実はっ……」
「さっきのは……嘘だったの……?」
「え……?」
アザミさんが笑っていない。
悲しげな訳でも憤りを感じているような表情である訳でもない。
無表情。美人な人の無表情って、ここまで怖いんだな、と俺は思った。
「ルークスくん、さっき一番仲がいいって思ってるって言ったら『ありがとう』って言ったでしょ……? 私のこと『綺麗』って言ったでしょ……?」
アザミさんはそう言いながら、俺の青のベストの下にある、ハイネックのインナーの首元を掴み、顔を寄せてきた。
お互いの吐息が触れ合うほどに。
俺の膝から、空になった弁当箱と、使用済みの箸が落下する。
「ねぇ、ルークスくん、私のこと……嫌いになったの?」
俺は、幸せ者だと思う。
こんな美少女に好きになってもらえたことに関しては。
だけど、不幸せだなと思うところもある。
やっぱり綺麗な花には棘があるんだ。
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