第50話 主人公たちの遊園地
レント先輩のお父さんが経営してるっていう遊園地は、なんと、日本本州三大遊園地の一つ、富士宮パラディーゾパーク。
海とフジが一斉に見える絶景観覧車は、プロポーズの名所として有名らしい。
男4人で行くにはまぁ悲しいけど関係ないな。
「楽しい声が聞こえる」
「お前もそのうちあれの中に入れるんだぜ?」
「ボクも……」
「そうそう。絶対楽しいぞこれは」
やっぱり俺、保護者だよな。
ちなみに俺たちは二人並んで電車に揺られ、隣町までやってきた。
ドルチェはいつもの羽織ではなく、白シャツにブラウンのベスト。
ズボンはくすんだブラウンの短パンだ。
俺は、それのお揃いに近い感じで、紺のシャツに白のベストで、下は最近お気に入りのブラウンのパンツ。
そんなこんなで、俺とドルチェは遊園地の前でレント先輩とユータを待っていた。
『お前ら今どこ? 集合時間、1分も過ぎてるんだけど』
ユータからの個人チャットが来た。
俺とドルチェは集合時間の15分前から
おかしいのはあいつの目のはず。
『俺らもうとっくに着いてるんだがw もしかして眼球クリーニングに出してます?』
俺が返信したけど、既読すらつかない。
おかしいなぁ、と思いながら、ドルチェと首を傾げていると、不意に目の前が真っ暗になった。
「だーれだっ」
武芸を極めて、気配を感じることだって容易にできる俺にこんなことをできるのは……
「お前しかいないだろ、ユータ」
「正解!」
他の人の気配は分かっても、こいつの気配だけは、
いつも通りの縮れた前髪と黒縁メガネ。
今日は半袖で紺色のシャツにブラウンのダボっとしたカーゴパンツだ。
不服なことに見た目と頭だけは良い。
「集合時間に遅れるなんて、粗略じゃないかルークスくん、ドルチェくん」
ユータは偉そうに腕組みをして言う。
性格は悪い。
「そりゃく……?」
「おっと失礼、えぇと……酷いじゃないかっていう意味だよ?」
「お前が俺のこと見つけられなかっただけだろ。まぁ、お前からの謝罪をもらいところだけど、あいにくレント先輩も来てないから怒ろうにも怒れないな」
「じゃあ、ボクが怒ればいいかな」
「ドルチェ怒れるのか?」
「天竹さんの真似する。こ、こら! って言う」
「身がすくむようだね」
「バカにされた……」
「あ……! そこにいるのは……!」
「会長⁉︎」「レント」「先輩!」
各々の呼び方で、俺たちは、少し遅れてやってきたレント先輩をお迎えする。
「少しだけ遅くなってしまったな。役員さんにチケットを貰いに行っていたのだ。ほら」
走ってきた先輩が見せてくれたチケットは、俺が知ってる庶民用ではなく、おそらく裏ルートでしか手に入れられない金ピカのものが4枚だった。
……父の会社の子会社って言ってたけど……この人もしかして良いとこのお坊っちゃん……?
ただ、着ている服は庶民的で、白のTシャツに薄手のグリーンのカーディガンに、青のジーンズを合わせている。
寒がりなのか?
この季節にはあんまりカーディガンを着てる人は見ないな……
しかし俺みたいな顔面偏差値の低い人間と違ってなんでも着こなせてしまうのがイケメンってやつだ。
ユータとレント先輩の隣には並びたくないな。
そんなことを考えていると、ユータに服の裾を引っ張られた。
「おいちょっと待てルークス。会長がいらっしゃるなんて僕の耳には入ってないぞ」
あぁ、そういえばこいつにレント先輩のこと話してなかったな。
「先輩が俺たちのこと招待してくれたんだよ」
「⁉︎ そりゃあ、その……なぜ僕たちなんぞと?」
「ボクの友達」「俺の先輩」
「お前たち何者なんだッ⁉︎」
……全部話すの忘れてたな。
「私が、遊んでもらうなら人数が多い方がいいと、ルークスに頼んだんだ。仲が良い友達だということは知っていたからな。きっと楽しいぞ?」
レント先輩がユータに話しかける。
「え、あ、はい! いえ、でも、会長からお誘いを受けられるなんて、恐縮です」
「緊張しなくて良いのだぞ? さっそく、遊びに行こうじゃないか」
おぉ、初見でユータと会話になっている。
会長ってだけあってやっぱ頭いいんだな。
「さて、このチケットが一枚あれば好きなだけ遊べるんだ。どこから行きたい?」
俺たちがまず最初に乗ったのは、平成文化の賜物、ジェットコースター。
ちなみにドルチェはレント先輩は一回俺たちの様子を見てから乗る予定みたい。
「僕、幼少期はこっちですら乗れなかったんだよ。今じゃこんなに楽しいことに気づいてしまったのにさ」
「それちょっとわかる! 最初乗るのには勇気いるよな」
でもなんで昔の人間はこんなに面白いものを思いついたんだろう。
科学力のそんなに高くなかったあの時代でも……
「高っ! おい、富士山見える! 僕の方すっごい富士山が見える!」
「えマジ⁉︎ 俺の方はめっちゃ海見える! すげぇ水平線見える!」
ここまで高いところから落ちても体が潰れないように工夫できてる時点ですごいと思う。
そして、次に乗ったのは、この時代のジェットコースター。
平成時代のジェットコースターは、体が潰れないように重力を気にして作られてたけど、今の時代は違う。
こっちに関しては『技術的に信用できるから』という理由で先輩とドルチェもついてきた。
「こっちに乗るのは久々だな! 最先端の遊園地じゃないとこういうのってないじゃん?」
コースターとは言うものの、最初に人間が入るのはガラス張りの球体の部屋。
「それでは回転始めて参りますので、せーのでジャンプ、お願いしますね」
その部屋を超高速で回転させることによる遠心力を使って、部屋の中に無重力空間を作り出す。
そして、その無重力空間を保存する特殊な液体をガラスの部屋に注入する。
そうすれば、勝手に自分の周りに無重力空間が生まれる。
その空間を移動させて………
「うわ……高い……!」
「何だっけ、地球は青かったってやつだっけ?」
「全然違う(笑) でもよくそんな言葉覚えてたな」
大気圏まで飛んだ後……
「みなさん準備はよろしいでしょうか?それでは落下いたします!」
一気に落下!
「「「「うわあああああああああああああァッ!」」」」
いやぁ、高い所に上がって落ちるだけなのに、何でこんなに楽しいんだろ?
こうして遊んでるうちに、お昼時になってきた。
俺たちは遊び疲れたのを感じて、近くにボートに乗れる池があって、眺めがいい売店でご飯を頼んだ。
しかし、カップルが多い。
ボートに乗ってるのは基本カップルだった。
ドルチェが『乗ってみたいけど……なんかあれは乗っちゃいけないものな気がする』って言って避けてたな。
俺は大好物であるシチュー、ユータは生姜焼き定食、ドルチェはフルーツのたくさん乗ったクレープ、レント先輩は唐揚げ定食を注文。
個性出てるな。
何故か一番時間がかかりそうな俺のシチューが一番最初に出てきた。
一人だけ先に食べてるってのも寂しいから、四人で座れそうな席を探して、みんなが来るまで待ってから、四人で一斉に食べ始めた。
「何でこういうところの飯って美味いんだろうな?」
「家での食事と、少しだけ、味の差はあるな」
「僕そもそもの違いがわかんないや……何か違うの?」
「おそらく日本一頭がいいであろう僕でも、この違いは理解できない。しかし美味い」
俺たちは飯に夢中になってた。
きっとあいつらはその隙を狙ってたんだろう。
変なくらい強い殺気を背後に感じて、ユータ以外はバッと振り返った。
「久々だね! ルークスくん!」
そこにはナイフを持った、俺たちと同い年くらいで赤いパーカーを着た銀髪の少年が立っていた。
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