第34話 【番外編3】出涸らしどもに邪魔をされる筋合いはない

「邪魔をするな出涸らしどもがァッ!」


え⁉︎ 何⁉︎ 怖すぎる! 志々島さんがいきなりキレ始めた!


「アルマくん、追ってみましょう!」

「はい!」


俺たちも茶室を出て志々島さんを追った。

志々島さんが止まったのは、二つ横の茶室だった。


志々島さんは、立ち止まって、息切れをしだしたと思うと……


『スパァンッ!』


騒音被害で訴えられそうなほど、勢いよく障子を開けた。


香田こうたの楽しみを奪うなこのたわけ者がァッ!」


志々島さんが開けた襖の奥を覗いてみると、そこには、無惨な姿になった茶室があった。

そして、異常な部分はそれだけじゃなかった。

怪我を負った、苗色なえいろの着物に紅梅色こうばいしょくの帯を締めた女性がうずくまっていた。

志々島さんは一瞬躊躇ためらってから、その人の元へ駆け寄った。


「大丈夫か香田! あいつらはどこに行ったかわかるか⁉︎」


志々島さんが香田さんの背中に手を回して抱き抱えながら叫ぶ。


「あっち……です……申し訳ない…………」


弱々しい声でその人が言うと、志々島さんは、ゆっくりと背中から手をどけてから、

「お客さんたち、申し訳ねェ! お茶はまた入れ直します! 今は香田を安静にしてやってくれませんか⁉︎」


俺たちの方へ呼びかけた。

居ることには気づいてたのか………


「えぇ、もちろん……でも、何でこんなことになっているの……?」


マドカさんがキョロキョロしながら尋ねたけど、志々島さんは何も答えずに去っていった。


何だあの男! マドカさんを無視しやがったな⁉︎

ただ、今はそんなことを言っている余裕はない。


「マドカさん! 何だか大変そうなので、俺は志々島さんについて行きます! 一人にしちまうようだけど、いいですか?」

「えぇ、気をつけて」


マドカさんは、心配そうな表情を浮かべていた。


……志々島さんがマドカさんを無視しやがったのは、わりと許せねぇ領域だ。

それに、命が絡んでくるなら、あんなヒョロい奴より俺が行ったほうがいい。

え? ヒョロいのは俺もだって?

そんなことはねぇよ。

まぁ何にせよ、死人が出る前に俺が行った方がいいだろう。


志々島さんが居るところはすぐにわかった。

今度は障子ではなく、ふすまを蹴り倒す派手な音が、あたりに充満していたからだ。

襖の音がしたところへ走っていくと、


生里なまり! お前はもういいから補綴ほていの術で香田を回復してこい!」


という志々島さんの声が聞こえてきた。


志々島さんの声が飛んだ方を見ると、少しおどおどとした表情の、翡翠色ひすいいろの着物を着て、青磁鼠色せいじねずいろの帯を締めた少年が、バタバタと飛び出してきた。


「うぅう……僕は忍術も甘い新人だからなぁ……志々島兄ちゃんにもあんま信頼されてないのかも」


その少年は、俺には気づかずに、マドカさんたちのいる茶室の方へ飛び去ってしまった。

そして、肝心の志々島さんの方へ行ってみると……


「お前らはなぁ! 俺たちの茶室にノコノコと足を踏み入れていいほどの価値は持ってねぇんだよッ!」


着物の裾を縛り、さっきまで結んでいたはずの髪の毛を解いた志々島さんが、前に立っている人を指差して叫んでいた。


「価値もクソもない! 君らを滅ぼすのが任務だから!」


前に立っていたのは、狐の面を被った人だった。

女性か男性かもわからない。

だけど、おそらくこれは確実だ。


こいつは悪役ヴィランで志々島さんたちは襲われてる。


「浦島太郎の力、確か、君たちは一人一人に違う力が備わってるだけだもんねぇ? 弱くて当然だよ?」


相手は楽勝といった素振りだ。

志々島さんは、何も言わずに相手を倒しにかかった。


「別に俺は何だってできる。その前に、力に頼らなくたって、俺には忍術がある」


志々島さんは変な形に手を組んで、ぶつぶつと何かをつぶやいた。


「火遁の術!」


志々島さんの声がいきなり大きくなったと思ったら、志々島さんの体が、一瞬炎に包まれた。

炎がおさまったと思ったら、志々島さんの体は、その場所から消えていた。


「どこいったのかなぁ?」


悪役ヴィランはキョロキョロと辺りを見回す。



「ここだよ」



すると、どこからともなく、真っ直ぐで平らな剣を持った志々島さんが、悪役ヴィランの背後に、何の音も立てずに着地した。

人以上に耳を鍛えた俺でさえ、何も聞き取れなかった。


その上、今までキレ散らかしていた志々島さんの顔は、最初に会った時と同じの無表情に戻っていた。


冷静になると、ここまで音が立たなくなるのか?


そして、悪役ヴィランが志々島さんの方へ振り返ったと思ったら、その悪役ヴィランは、そのまま倒れてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る