第31話 奇妙なルームメイト

俺の部屋にユーラさんがいることが発覚してしばらく経った。


毎日毎日、俺が寝る直前になると現れて、俺の話を聞きにくる。


それに、ユーラさんは喋るのが好きみたいで、ラプンツェルのことも色々教えてくれた。


[実はさぁ! 元々のラプンツェルは2010年に映画になったやつとは全然違うんだよ! あのね、ラプンツェルはお姫様じゃなくて、長年子供がいなかった農夫さんとおかみさんの夫婦がやっと授かった女の子なんだよ。妊娠したおかみさんが隣に住む魔法使いの畑のラプンツェルを食べたくて『ラプンツェルが食べられなければ死んでしまう』って、駄々をこねるんだ。それで、農夫さんが魔法使いの敷地に忍び込んでとラプンツェルをひとつ摘み取った。それをサラダにして食べたおかみさんは、今度は『ラプンツェルを三倍欲しいって』言い出した。農夫さんは再び魔法使いの庭からラプンツェルを摘み取りにかかったんだけど、魔法使いに見つかっちゃってね。農夫さんから事情を聞いた魔法使いは、『好きなだけラプンツェルを摘んでもいいが、子供が生まれたら自分に渡せ』って、農夫さんを脅したんだ。だからね、実はさ、このお話にお姫様は出てこないんだよ]


[おかみさんが生んだ女の子の行方が知りたいって? うん、いいよ! その女の子は魔法使いに連れて行かれたんだよ。それで、ラプンツェルって名付けられて、森の中にある入り口のない高い塔に閉じ込められるんだ。塔の中で美しい少女に成長したラプンツェルは、魔法使いが『ラプンツェル、ラプンツェル、おまえの髪を下ろしておくれ!』って言うのを合図に、金を紡いだようなすっごく綺麗な長い髪を窓から垂らして、それをはしごの代わりにして塔へ出入りさせていたんだよ。そんなある日、森の中を歩いていた王子が美しい歌声に引かれて、塔の中のラプンツェルを見つけたんだよ。これが2人の出会いなんだ! そう、だから、盗賊の男なんて出てこないんだよね。昼間は魔法使いが来るから、夜に同じ方法を使って塔に登ったんだ。人生で初めて、友達のように話しかける王子に驚くラプンツェルだけど、そのうち愛し合うようになってくんだよ。ロマンチックなもんだよねぇ……]


[最終的にどうなったかって? うーん…………聞いちゃう? ある日ね、ラプンツェルが王子を招き入れて恋仲になってたことが、魔法使いにバレちゃったんだ。それで、怒った魔法使いが、ラプンツェルを荒野に追放しちゃうの。その一方で、何も知らない王子が、いつも通りラプンツェルを訪ねに来たんだけど、垂れてきた髪は、魔法使いが垂らした、ラプンツェルから切った髪。美しいラプンツェルに会いにきた王子は、恐ろしい顔をした魔法使いに『あの子はもういないよ』と聞かされて、絶望のあまり塔から身を投げちゃったんだ……王子は、命は助かったんだけど、茨が両目に突き刺さって失明しちゃってね。そこから7年後、盲目のまま木の実やベリーを食べて森をさまよっていた王子は、ラプンツェルが追放された荒野へたどり着けたんだよ! 凄いよ僕らのご先祖様! そこで、男女の双子のお母さんとなっていたラプンツェルとめぐり会えたんだ。うれし泣きするラプンツェルの涙が王子の両目に落ちて、王子は視力を回復できたんだよ。王子はラプンツェルと子供たちと一緒に国に帰って、皆で幸せに暮らしましたとさ。キミが知ってるラプンツェルとは、全然違うでしょ?]


あ、アルマさんとの話もよくしてたな。


[実はさぁ、僕らの一族はみんな体が弱いんだよねぇ。僕は運が良かったからめちゃめちゃ強かったんだけどね。それで、アルマはやっぱ体が弱く生まれてきたんだよ]


[いやねぇ、アルマは可愛い子なんだよ。僕のところに来た悪役ヴィランから守ってくれた後、能力の制御ができなくて毎回倒れちゃうんだ……そういうときに毎回おんぶして帰るんだけど、『兄ちゃん、いつもありがとう。だけど、やっぱり重いよな。そのうち体が強くなったらさ、体重減らせるように運動するよ』って言うんだよ! 可愛いよねぇ! もう既に痩せすぎで健康診断ひっかかってるくらいなのに、僕に気を遣ってくれるなんてねぇ!]


[そういえばさ、昔、僕が風邪をひいたときのことなんだけどね、そのときにアルマが『兄ちゃん大丈夫? 俺は風邪ひき慣れてるからなんともないけど、兄ちゃんは久々でしょ? 辛いよな?』って言い出してさ。面白いよねぇ。ひき慣れるってなんだろうね]


でも、実は、こうやって話してるだけじゃない。

これは今までのことでもあるけど、俺たちが寝てる間にやってきた悪役ヴィランを、一号室から届く範囲で倒してくれてる……っていうか、脅かして追い返してくれてるらしい。流石にガチ幽霊見たらビビるよな。俺だって最初は小人呼びかけたんだし。


こうして奇妙なルームメイトができた俺は、話したい欲に負けて、見事に寝不足に陥った。

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