ユーレイ編その一
第30話 ユーレイの光
俺は思わずベッドの上で戦闘態勢をとった。
もしもの時のために、ベッドの横にある林檎にも手を伸ばす。
[え〜……そんな怖い格好されたって、キミの敵ってわけじゃないんだけど……]
「じゃあなんだって言うんだよ!」
俺がそう言うと、その男は気味の悪い笑顔で俺に近寄ってきた。
[僕の名前は塔ノ上ユーラ=ロイ。ここにアルマって子が住んでるでしょ? 僕はその子のお兄ちゃん]
え…………?おかしい。アルマさんのお兄さんは、もう亡くなってるはずだ。
ここにいるわけがない。
[あ、びっくりさせちゃったよね? アルマの友達なんだろうし、僕が死んでることも知ってたかな?]
「やっぱ死んでるんじゃん!」
……それに、友達っていうか、隣の部屋の頼れるお兄さんって感じなんだけど…………
俺が戦闘態勢をとったまま考えていると、ユーラ……という人が、とても嬉しそうな表情でくるっと宙返りをしながら笑った。
[うれしいなぁ! アルマは『お兄さん』って言われるくらいしっかりした子になったんだね! 僕がいなくて大丈夫かなって思ってたけど、きっと前よりたくましくなったんだろうなぁ!]
宙返りをやめた後、ユーラさんはいつまでも地面に落ちなかった……え⁉︎
[あ、僕ユーレイだから浮けるの。移動できるのは一号室の中だけなんだけどね。]
……………なるほど、これが地縛霊ってやつか。
怖……
てか、なんでさっきから俺が思ったことを読み取られてるんだ⁉︎
[僕がユーレイだから]
また⁉︎ えぇッ⁉︎ 怖っ!
[そんなぁ、こわ怖くないよぉ?]
…………やっば……
[やっぱりびっくりしちゃうよね。僕のせいでここに人が来なくなっちゃったんだしねぇ……あ、キミがこんなこと言われてもわからないよね。あのね、僕はね、昔ここでアルマと暮らしてたんだ。それで、僕らがラプンツェルの子孫だってことは知ってるよね? そのせいで、僕、ここで殺されちゃったんだよね……]
ユーラさんは、普通の人であれば絶対にびっくりなことを淡々と話している。
ユーレイだからなのだろうか。
言葉の情緒に合わせて、ユーラさんの体は様々な色にチカチカ光る。
[だけど、なぜか僕は普通に成仏できなかったんだよぉ。あのね、一回だけなんだけど、ここは天国なんだろうなぁって感じるところに行ったんだよ。そしたら『お前はここに来る前に、弟に別れを告げなければならぬ。そして、お前自身が大きな未練を抱えているのだ』みたいなことを言われたんだよぉ。だからね、多分ね、僕はアルマのことが未練だから成仏できないんだよね]
そこまで言った後に、ユーラさんの口調は強くなった。
[それなのにね! 一号室の中でしか動けないんだ! アルマに会いに行きたいのに、僕はず〜っとこの部屋の中!]
ここまで言って、一息してから、ユーラさんの体が、何か思いついたようにオレンジ色にパァッと光った。
[そうだ! キミがこの部屋にアルマを連れてきてよ! うん! それがいい!]
…………え? 今が何時だと思ってるんだ? 深夜だよ?
[別に今日じゃなくてもいいよ。だって、ここに住んでるんでしょ?]
まぁ、そうだね。
[じゃあ、けってーい! いつか会わせてね! 待ってるよ! それじゃあね!]
それだけ言うと、ユーラさんは消えていった。
……あれがアルマさんのお兄さん…………見た目はある程度似てたし、声は……なんだろうな、同じ人が違う声を作ってしゃべっているような声だった。
だけど、性格は全く似てないな。ビックリ。
アルマさんは、カッコいいなって感じだけど、ユーラさんは元気だなって感じがする。
あ、だけど、ユーラさんの笑った時の無邪気な感じは、アルマさんが時々見せる、すごく優しい笑顔に似てたな。
それに、お互いに兄弟思いのいい人っていう共通点があるし。
きっと2人ともいい人なんだろう。
じゃなきゃ、死んでも兄弟のために地上界に留まることなんてないだろうし。
でもなぁ。
アルマさんは、ユーレイになったユーラさんに会って、どう思うんだろう。
嬉しいって思うのかな?
昔のことを思い出して喜ぶのかな?アルマさんがどう思うにしても、ユーラさんがアルマさんに会っちゃったら、未練がなくなって、天国にいっちゃうのかな?
そんなことを考えている間に、俺の体は限界を迎え、自分でも気付かない間に眠ってしまった。
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