第10話 白雪姫の帰宅
一連の事件の次の日……というか、コテージにたどり着いたのが今日だったから、今日なのかな?
俺は、先生、クラスメイト、お母さん、サクヤさん、アルマさん。
色んな人にこっぴどく叱られた。
お母さんとサクヤさんとアルマさんは電話だったけどね。
1番うるさかったのはユータだった。
「お前なぁ! アザミさんも俺も、血眼になって探したんだからな! アザミさんの涙を返せこの野郎! グースカ気持ち良さそうに安眠してやがったな! まぁアザミさんより俺の方が心配してたんだろうけど!」
話によると、実は昨日、一晩中、先生と林間学校のスタッフの人たち、そして無理矢理参加したユータとアザミさんとサティちゃんが俺のことを探してたらしい。
それで、みんな一睡もしてないんだとか……
いや〜……本当に申し訳ない。
だって、まさか好きな子庇って川に落ちて遭難するなんて思わなくて……なんてことは俺は口が裂けても言えないだろう。
俺はまだ生てるんだからバレたら終わりなんだ。
そんなこんなで今日の唯一の日程である退所式が終わり、俺たちはバスに移動し始めた。
右頬のガーゼの下の傷が痛い。
「ほんと、今日が退所式のみの希薄な日程でよかったよ。隣の席のお前には申し訳ないが、バスの中では睡眠をとらせてもらうよ。あ、肩も借りるからな。寄りかかって寝させてくれ。お前、鍛えてるからちょうどいい枕になりそうだし」
あくびをしながらユータは言った。
「探してくれた恩だ。俺が持ってきたブランケットと枕も貸すよ。てか、なんなら掃除当番も代わろうか?」
「掃除当番は断固拒否だ! アザミさんと一緒だから代わりたくない!」
「そっか(笑)」
こうして俺たちはS組のバスに乗り込んだ。
俺とユータの席は、なぜか俺たち2人しか座りたいと言わなかった、1番後ろの席だ。
ユータに貸すためのブランケットと枕を出していると、一睡もしてないはずなのに美人顔がいつもと全く変わっていないアザミさんが話しかけてきた。
「ルークスくん大丈夫? 危ない目に遭ったりとかしなかった? あ、でも流されてるってことは、十分危なかったんだろうけど……」
よく見ると、来ているジャージの裾が、少しだけ切れている。
……無理してくれたんだな。
「えっとね、私もユータくんも、すごく心配で………あの、これ食べて。蜂蜜と林檎の飴なんだけど。疲れが取れるからって、ママが持ってけって言ってたの」
アザミさんは俺の手に飴を押し付けると、顔を真っ赤にしながら小走りで自分の座席に走っていった。
今回もやはりユータの、いや、アザミさんラブな生徒たち全員からの『抜け駆けなんて許さねぇぞ』という目が俺に刃となって突き刺さった。
だから、違うんだって。
俺が好きな子は……今、一番前の席でスヤスヤと眠っているあの子だ。
あとでお礼言わなきゃね。
バスの中での話と、言伝荘に帰る前の話を少ししよう。
結局バスの中で、ユータは俺の肩ではなく、膝枕で寝ていた。
それを見たアザミさんが、ずっとユータを睨んでいることを、俺は見逃さなかった。
学校に帰ってきてすぐに、保健室の先生が俺のところにすごい勢いで突進してきて『大丈夫⁉︎怪我してない⁉︎体に異常は⁉︎』って、機関銃みたいに心配してきたから、びっくりしたよ。
サティちゃんは……結局、最後まで起きなかった。
起こしちゃうのも可哀想だったから、俺はユータを叩き起こし、ブランケットを剥ぎ取って『探してくれてありがとう。また明日』と、洗濯すれば消えるペンで書いて、サティちゃんにブランケットをかけてあげた。
そして、言伝荘に帰ってきてから。
俺はまた思いっきり突進され、保健室の先生よりも高い声の機関銃攻撃にあった。
サクヤさんだ。
「よかったぁ〜……! ちゃんと帰ってきましたぁ〜……アルマさんの風邪が治ってルークスさんも帰ってくるってちょっと安心してたのに遭難したってルークスさんのお母さんから連絡が来て……今度はバスが事故に巻き込まれたとか言わないかって、すっごく心配だったんですよぉ……」
泣きつかれた俺は、ちょっと戸惑った。
そのあと、完全復活した割には顔色の悪いアルマさんがやってきて、サクヤさんの肩に手を置き、
「いいじゃねぇか、無傷ではねぇが、見たところデカい怪我もしてないみたいだし、一応ちゃんと帰ってきたんだし」
と、凄くありきたりな台詞を言った。
アルマさんは、サクヤさんが頷き、顔を上げたのを確認すると、サクヤさんの肩に置いていた手を、俺の頭に持ってきて、何にでも勝るほどの優しい笑顔で言った。
「おかえり」
俺はそのとき、いろんな気持ちが溢れてきて、思わず泣いてしまった。
普通に怖かったよ。
だって、川に流されて遭難すんだよ?
どう考えたって恐怖の極みじゃん。
アザミさん、ごめん。
俺はあんたの気持ちには答えられないんです。
ユータ、ごめんな。
夜中の森で人探すって、相当辛かっただろうな。
しかも結局見つからなくて、部屋の中で寝てたとか……
最悪だよな。ごめん。
小人たちも、俺のこと、心から心配してくれてんだな。
もっと頼ったっていいんだよな。
そして、いくらズタズタになって帰ってきても、泣きながら心配だったと言ってくれる人が、頭に手を置いて『おかえり』と言ってくれる人が、そばにいるんだなって。
まだ、出会ってから少ししか経ってないのに、こんなに暖かく感じるのは、なんでなんだろう。
なんでかはわかんないよ。
けど。
「あ!ルークスさんのこと泣かせましたね!」
「えぇ⁉︎俺の手がそんなに嫌だったか⁉︎すまん!マジでごめん!」
「いや…………違うんです……すいません……ちょっと……安心しちゃって……」
そんなこんなで、色々あったけど夕飯タイム。
今日のご飯は俺の大好物であるシチュー。
それも、アルマさんの作ったやつだ。
多分、どこのレストランに行っても、ここまで美味しいシチューは食べられないだろう。
それに、アルマさんが作った料理特有の味が、俺は大好きでホッとする。
まだ家族と暮らしていたとき、一日あったことを話すのが決まりだったから、その習慣がついてしまった俺は、事情聴取のように宿泊学習中にあったことを根掘り葉掘り訊いてくる2人に、当たり前に対応できた。
それに、俺も根掘り葉掘り訊き返してやったしね。
そうしてわかったのは、アルマさんのお兄さんが
「そうなんだよ。ちょっと寂しくなっちゃってな。帰ってきたんだ」
スプーンを口に運びつつ話していたアルマさんは言った。
「意外と可愛いところ、あるんですね」
俺がニヤニヤしながら茶化すと、アルマさんはスプーンを運ぶ手を止めて、
「恥ずかしくなるからやめてくれよ〜」
と、ちょっと楽しそうに笑っていた。
俺は、ここまで安心できる場所は、この地球上どこを探しても他にはないなと、謎の優越感に浸っていた。
「じゃ、おやすみ〜」 「おやすみなさい!」 「また明日!」
俺たちは夕飯を食べ終わったし、たくさん話して満足したので、自分の部屋に帰った。
さすがに、3日間の宿泊学習の疲れが襲ってきたので、俺はものすごいスピードで風呂に入り、歯を磨き、パジャマを着て、ベッドに倒れ込んだ。
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