第9話 小人たちを頼りなさい

俺が意識を取り戻したのは、深い森の中だった。

周りには樹木が生い茂っていて、空が見えない。

光がさしてないから、きっと今は夜なんだろう。

さっきまで、まだ夕方だった……んだよな?


記憶も少し曖昧だ。


足に冷たい感覚と、刺されるような痛みを覚えて、目をやると、血を流しながら、足が川につかっている。


痛い。身体中、かなり痛い。

多分、川で流されてる間に岩とかにぶつかって傷だらけになってるんだろうな。

昔、ちゃんと習って格闘技やってた時と同じ感覚……骨が折れてる感覚がする。

その頃はまだ、ちゃんと一人で戦えなくて、よく敵に折られてたんだよな。

今じゃあ、どこの流派にも属さない感じの総合格闘技的な感じで、すげぇ勝手な使い方してるんだけどね。

空手とカンフーとボクシングと……色々やったけど、ごちゃごちゃにして戦うのが一番やりやすいんだよな。

気狂いなのは自覚してるよ。


…………いや、今はそんなこと考えてる場合じゃないか。


おそらく俺は、今、行方不明扱いになってるんだろう。

実際、こういう状況を遭難っていうんだろうな。

とりあえず帰るための道を探さないと。


でもなぁ…………

ここまで木が生い茂ってると、どうしようもないんだよな……


あ、そうだ、青を呼べば飛んで帰れるかも。


俺はビショビショになったウェストポーチから林檎を取り出し、一口かじった。


いやぁ、夕飯食いに行くだけだから、手ぶらでもいいかとは思ったけど、一応持っておいて正解だったな。


そうすると、現れたのは赤だった。


「おい!おれがいないあいだに、なにがあったんだ!」


俺は、さっきまでのことを全部話した。

ついでに、青を呼びたいということも。


話を聞き終わった赤は、唇を尖らせて言った。


「…………そうか、シツレンってやつなのか?」

「いや……全然違います! 逆に俺は自分の恋を守ったの!」

「うーん、まぁ、わかんないけど、とりあえずわかった! おれはかえる!」


俺の体を小さな炎で乾かしてからで赤は消えていった。


おれは林檎をもう一口かじった。

現れたのは桃色だった。

桃色は出てきてすぐに俺に怒鳴った。


「なんで、こんなことになるまえに、ぼくたちをたよらなかったんだ! ちゃんとたよってよ!」

「うん。ごめん。もっとちゃんと頼るようにするね」

「うん、ちゃんとたよってね」


桃色はそう言うと、俺の傷を癒やして消えていった。

見た目はあまり変化なしだけど、痛みは綺麗になくなった。

さっきまでの折れてた感覚も無くなっている。


俺はまた林檎をかじった。

現れたのは緑だった。


自然が大好きな緑は、周りを見て喜んでいる。


「ここ、すごいね! ぼくのともだちがいっぱい……あ、でもね。ルークスがまよってるって、あかくんがいってて、しんぱいだったんだよ?」

「ありがとう。実は……ほんとに迷っててさ。なんとかできる?」


俺がそう言うと、緑は腕を振り上げた。


すると、その方向で生い茂っていた樹木の形が変わり、道ができた。

す、すご……


「ぼくにできるのは、このくらいまで。あとはがんばって!」


緑は消えていった。


次に林檎をかじって現れたのは、紫だった。

紫は現れてすぐに焦った様子で、俺に近寄ってきた。


「アンタ、ケガしたらしいじゃない! それに、もりでまよったって……あ、べつに、しんぱいしてるわけじゃないんだからね!」

「うん、心配してくれてありがとう。俺、今、めっちゃ迷ってるんだよね。帰りたいんだ」


それを聞いた紫は、辺りを見回し、自分には何もできることがないと、落ち込んで、何も言わずに消えていった。


ごめんな。


俺はまた林檎をかじる。

現れたのは黄色だった。


「もー! しんぱいしてたんだから! つぎ、こんなことになったら、おこっちゃうよ!」

「ごめんな。でも、今は助けてくれないかな。」

「もちろん。そのために、きたんだから。コテージに、かえりたいんでしょ?おてつだいするよ!」


黄色はそう言って、光の道を作った。


「これをたどれば、かえれるよ!」


そう言って黄色は消えていった。

光の道が指す先を見たけど、あまりにも遠すぎる。

俺……こんなに流されたんだ……


俺はもう一口林檎をかじった。

現れたのは俺の本命である青だった。


「よかった! ボクをもとめてたんだろう?」

「そう!この光の道の先に連れて行ってくれないかな?この先にコテージがあるんだ。」


俺の言葉を聞いてすぐに、青は俺を浮かばせて、こう言った。


「あとは、みちにそって、とんでいけばいいからね。きをつけて、かえりたまえ」


青は消えていった。


俺は、赤が乾かしてくれた体を持ち上げ、桃色が癒してくれた足を使って、緑が作ってくれた空を、黄色の作ってくれた道に沿って、深い紫色の夜空を、青の力で飛んでいった。


山奥ってこともあって、星が凄く綺麗に見える。

星空の中に、親分のように佇んでいる月は、いつも言伝荘から見ているときと変わらない、優しい笑みを浮かべてこちらを見ている。


空を飛んでいる間に、山の奥にある、自分の住んでいる町が見えた。


……2人は元気かな…………


遭難した場合、まず、真っ先に連絡が行くのは、保護者と世帯主。

俺が川に流されたこと、多分、サクヤさんのもとに連絡がいってるはず。


心配してるかな……それとも、まだ連絡は届いてなくて、何も知らずにご飯でも食べてるのかな…………


そんなことを考えながら飛んでいくと、俺はコテージに辿り着いた。


ナーサたちもいるであろう、指定されたコテージの部屋に入った。


時計を見ると、もう深夜の3時を回っている。

流石にみんなも眠っていた。


疲れた。

今日は色々ありすぎだ。


アザミさんのことでビックリするわ、サティちゃん庇って川に落下するわ、空を飛んでホームシックになるわ。


そんな疲れた体で、俺は、誰も寝ていないことを確認して、部屋の一番ドア側のベッドに倒れ込んだ。

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