林間学校編

第7話 白雪姫は片想い中

「ルークス、鍋どこか知ってるか?」


クラスのお調子者担当のナーサが具材を持ったまま言う。


「米の隣! 水多すぎ注意な!」


「ルークスくん、やっ、野菜切ってみたんだけど、どうかな?」


クラスのマドンナ的存在のアザミさんが恥ずかしそうに言う。


「ありがとう! 次は玉ねぎ切って欲しいな!」


え〜……比較的陰キャ気質の俺が、今こうやって慣れない指示出しをしているのはなんでかっていうと……


現在、宿泊学習で来た山奥にて、お昼ご飯のためのカレー作り中だからだ。


3班の班長であり、校内一位の戦闘力を持つ俺は、周りから薪割りとかの力仕事や指示出し担当だから、カレー作りがもはや終盤に差し掛かった今、仕事がない。


ちなみに、S組っていうのは俺が通ってる『私立青林学院』のクラス分けのうち、1番優れてる奴らのクラス。


別名『模範集団エリーツ』。


この学校への入学基準は『何か一つでも日本トップクラスの特技があること』。

入試の方法も特殊で、学力だったら筆記試験、スポーツだったら実技っていうふうに変わる。

そうやって、各ジャンルのトップが集まったとしても順位の差は生じるから、各ジャンルのトップ3の奴らが所属できるのがS組、4番からがA組、8番くらいからがB組っていうようにクラスが別れる。


まぁ言うなれば、完全実力主義ってやつかな。


班分けでもこれと同じような方法で分かれてて、班長は先生の指定したジャンルのトップ。

副班長は他ジャンルの2位。

それ以外はバラバラに別れる。


ということで、自分自身の身を守るために習得した武術をロクに努力もせずに受験に使って武術部門主席を取ったクズである俺が班長をやっている。


正直言って、俺みたいなやつが首席気取ってていいのかなって思う。


だけど…………


「ルークス、カレー出来たよ!」

「早くおいでよ!」

「冷めるぞー」

「わ、私の隣に座ってくれない? なんて……」

「抜け駆けするんじゃないわよ!」


 強くなったおかげでみんなが頼ってくれるから、毎日がすごく楽しい。


ってか、いつの間にか完成してる⁉︎

食べに行こう。



「お前遅ぇよ。冷めちゃうだろ?」


クラスで1番仲のいい、勉学部門主席のユータが微笑して言う。


「いや悪ぃ悪ぃ」


結局、色々な人に誘われても、行き着く先はコイツなんだよな。



俺とユータはカレーを頬張りながら話す。


「お前さぁ、アザミさんの悩み、知ってるか?」


まぁたアザミさんの話しかよ……

もう聞き飽きるぞ、いい加減。


アザミさんは、この学年の美しさの部門の主席の生徒だ。

その名の通りアザミ色の美しい長髪を持っており、その綺麗な水色の瞳は、男女関係なく多くの生徒たちを虜にしている。

その上、性格もピュアで可愛らしいときたもんだ。

モテないわけがない。


「え? 何が? 知らないけど」



俺が一度手を止めてそう言うと、ユータはため息を一つついた。


「全く、罪な男だなぁ……なんでこんな顔だけの鈍感馬鹿力低身長野郎どんかんばかぢからていしんちょうやろうがモテるのか、僕は不思議に思うよ」


「低身長は違うだろ⁉︎ 160あれば低身長じゃない!」


鈍感と馬鹿力は認めてやるけどさ!


「嘘つくな。159だって知ってるから」


なんで知ってるんだよ、バラしたことないのに。


「それで、アザミさんはだな。お前について悩んでるんだよ!」


「はぁ⁉︎ 俺⁉︎」


アザミさんみたいな陽キャが何故俺なんかのことで悩んでいるんだ⁉︎


…………ん?

待て、ユータはさっき、モテるって言ったよな……?


「もしかして…………アザミさん……俺のこと好き……?」


俺が恐る恐る言うと、ユータはスプーンを机に叩きつけ、


「そうなんだよ! この幸せ者が! 僕とそのポジション交換しろ!」


と言い放った。


え⁉︎ マジぃ⁉︎ あのアザミさんが⁉︎

一部のリア充を除く全生徒の目をハートにしているアザミさんが⁉︎


俺はパニックだった。


後ろにいるアザミさんの方を見ると、目があった。


アザミさんは、ビックリしてからちょっと恥ずかしそうに手を振ってきた。


次の瞬間に彼女のいない男子全員の『抜け駆けなんか許さないからな』と言いたげな目が、俺に降り注ぐ。

もっと痛いのは、アザミさんの近くでご飯を食べていた親衛隊のような女子たちの突き刺すような目線だ。


「ったく、お前は。全生徒の憧れを何もしていないのに叶えてしまうとんでもない能力を持ってるようだな」

「は? 告白されても付き合う気はないからな? 俺にはちゃんと」

「まぁた赤倖美さんの話かよ……」

「バカ!声がでかい!」


そう。俺には好きな子がいる。


赤倖美あこみサティ・ユーリっていう、スポーツ3位の子だ。

その子はクラスで目立つってわけでもないし、特筆するほど美人ってわけでもないけど、入学して最初に仲良くなった女の子だ。


普通に優しいし、スポーツ入学の割に頭めちゃくちゃ良いし、あと、なんと言っても可愛い! これに尽きる!


耳より低い位置で結んだツインテールをぴょこぴょこさせながら、赤のパーカーの袖で隠れた手を必死に使って話してる姿。


黒のスカートを翻しながら、小さい体をいっぱいに使ってこっちに走ってくる姿。


それと何より、その俊足を褒めた時に返ってくる、どんな兵器よりも破壊力のあるスマイル。


ほんとに可愛いんだよ、サティちゃん。


魅力は見た目や声だけではない。


もちろんその天真爛漫で優しい心が、決め手である。


「なんであんな普通な子の方がいいのか、僕はわからない。絶対にアザミさんの方がいいって!」

「アザミさんの、って言ったな、今」


俺はキレ気味になりながら言う。


これだけは断言できる。


人は見た目って考えは絶対に通らない。

そんなこと言ったら、俺が何度も美人な人に殺されかけたって事実はないはずだ。


「ごめんって! 冗談冗談!」


ユータは食べ終わったカレーの皿を盾にしながら言う。

俺は使い終わったスプーンを剣にして、小さい声で言った。


「とにかく、俺は無理! 恨まれんのも怖いし、好きな子いるし!」


こうしてユータと話しているうちに、全員がカレーを食べ終わったので、自由時間となった。


さっきの話が聞かれていないか心配になったので、俺はサティちゃんのところへ行った。


サティちゃんは木から吊るされた大きなブランコで楽しそうに遊んでいた。

こういう無邪気なところが、俺は大好きだ。


「ねぇ、サティちゃん」


俺が話しかけると、サティちゃんは体操で培った身体能力を駆使して、バク転のような動作でブランコから飛び降りた。


他のクラスの生徒が目を丸くしている。


スカートの中身が心配になる動きだったが、あいにくそれは見えなかった。


そして、彼女は愛らしい高い声で、言った。


「どうしたの? ルークスくん?」


「あー……えっと、その、さ。さっき、カレー食べてるとき、誰といた?」


好きな子に話しかけるっていうのは、割と勇気がいる。


「アタシ? んーとね……ナーサと、ティミーと、フォンスと、トレーネと、アムで、いつもの5人と食べてたよ。カレー美味しかった!」


よかった。そのメンバーなら安心だ。


ナーサはクラスで一番のお調子者で、フォンスはちょっと天然ボケなムードメーカー。

トレーネは結構うるさいけどいいやつ。

ティミーとアム……アムールは静かな子だけどね。


この集団、めちゃめちゃ仲がいいから多分ずっと話してたんじゃないかなと思う。

多分バレてないだろう。


「それがどうかしたの? あ、もしかして、ルークスくんも入りたかった? 来る?」


………………え? いいんですか?

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