第5.5話 白雪姫は心配性

アルマさんが隣の2号室に来て2週間。


どうやらアルマさんは音楽が好きなようで、2号室からは、よくギターの音と心地よい歌声が聞こえてくるようになった。

普通はこういった音は迷惑とされるけれど、アルマさんの場合はそんなことは全くもってない。

アコースティックギターのときも、エレクトリックギターのときも、アルマさんの歌がその辺の歌手ぐらい上手いから、知らない曲でも普通の歌手の曲と同じように聴けて、勉強中のBGMが必要なくなった。

むしろ、ありがたいくらいだ。



実はあの人、近くのショッピングタウンにある楽器店の店員をやってて、昔バンドを組んでたこともあったらしい。


それに、アルマさんは料理が上手い。


言伝荘には交流スペースがあって、いつもそこに集まって3人でご飯を食べるんだけど、アルマさんがご飯を作った日、『ここは高級レストランか⁉︎』って思うくらい美味しいボロネーゼが出てきて、ホントにびっくりしたよ。


というか、下手すると小さい頃、家族みんなで行った高級料理店より、あの人の作った料理の方が美味しいかもしれない。


あと、戦闘中がホントにかっこいいんだ。

若干茶色に近い金髪が、悪役ヴィランたちを締め付ける姿が蛇みたいで、最初に出会ったときは、怖い蛇だと思ったけど、知り合ってから見てみると、すごく頼もしい蛇だと思った。

学校帰りでちょっと無防備になってたら鳩尾みぞおちを殴られて立てなくなった時に『大丈夫か⁉︎』って駆けつけてくれたときとか、特にそう思った。


そんな完璧でかっこいい大人に見えるアルマさんだけど、一つだけ重大な欠点があった。


あの人、心配になるくらい体が弱いんだ。


実は、アルマさんは言伝荘に来てから1週間で体調を崩して寝込み始めたんだ。

今、とっくの昔に定年退職したサクヤさんがずっと看病しつつ、絶好のチャンスだと襲ってきた異常な数の悪役ヴィランを追い返したりしている


1人で暮らしてた時とかはどうしてたんだろう?

ちょっと心配になる。


ちなみに俺は今、2泊3日の宿泊学習の林間学校に来ている。


この時代、山は建築の邪魔でしかなかないから、全部全部、切り崩されていた。

それで、今、日本本土の地図上で山とされるのは、殆どが登山ユーザーのために作られた人工の山。

現在、日本に残る天然の山はフジ山とかシラカミ山地とかみたいに、世界遺産に登録されている山だけ、らしい。

俺たちが来ているのも、もちろん登山ユーザーのための人口の山。


とはいえ、言伝荘からは離れているところだから、アルマさんの様子は全くわからない。

すごく心配だ。

今頃、どうしてるんだろうなぁ……

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