第3.5話 一人暮らし
「ただいまぁ」
俺はりんごの箱を持ち、疲れ切った体で玄関に倒れ込んだ。
「お帰りなさぁい、ご飯できてるわよぉ」
いつも通りのゆっくりしたお母さんの話し方が俺の安心感を誘う。
さらに、キッチンから俺の大好きなシチューの香りが漂ってくることにより、俺の安心感は局地に至った。
「いただきまっす!」「はぁい、どうぞ!」
基本、ご飯はお母さんと俺の2人で食べるのが日常。
ご飯の時には今日のことを話すのも、家族での決まり。
「今日は林檎を買いに行ってたんでしょ?いいの見つけた?」
「うん。ちょうど7回かじれば食べ終わるくらいのやつがあった」
「よかったわねぇ。あっ、それでね、いきなりなんだけど……」
「どうしたの?」
「ルークス、あなたそろそろ一人暮らししないの?」
「………………」
そういえば、俺の兄貴は高校から一人暮らし始めたんだった……
一人暮らしか、案外いいかもな。
「ほら、私はルークスがいてくれるの嬉しいけど、男の子だしそろそろ自由になりたいなぁみたいなのがあるかなって」
「自由って。別に今が不自由って思ってるわけじゃないよ」
「だけど、そろそろ自立の時よ! 私のひとり立ちも高校生だったもの!」
お母さんはいきなり立ち上がった。
どこの涼宮さんですか?
「どこか、ここに住みたい! とかそういう場所はないの?」
「そんないきなり言われても……あ!そういえば!」
『いやぁ、ここのアパート入居者が少なくて、と言いますか、わたししかいないのですが………』
「行きつけの果物屋の近くに、言伝荘っていうアパートがあって、そこに友達が住んでて、住むんだったらそこがいい!」
「ほらあるんじゃない! 今日が土曜日でよかったわ! 明日早速準備ね!」
「———ってわけなんですけど……」
日曜の昼間に、昨日知り合ったばかりのサクヤさんの部屋に行って、言伝荘に住むことになった経緯を説明した。
「ルークスさんが言伝荘で一人暮らしをされると……そうなんですね!嬉しいです!」
無料のスマイルを振り撒いて、サクヤさんが言った。
「では、一号室にどうぞ。よろしくお願いしますね。」
「はいっ」
ということで俺は言伝荘の一号室で一人暮らしをすることになった。
え、マジで言ってる?
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