食卓
騎士団の第四部隊には変な子どもがいる、というのは有名な噂話だ。まぁ噂ではないんだがな。
扉を開けると、その変な子どもがいた。お下げにした茶髪を揺らして振り返り、手に持っていた猫の死骸をこちらに見せる。時折詰所にやってくる老猫だった。真っ赤な中身が机の上に広げられているから、つまり、そうだろう。
「すごいだろう。自分でしたんだ」
「ああ、すごいな。だが、ちゃんと埋めてやりなさい。弔いは必要だ」
「うん。ねぇ見て、この肝。すっごく綺麗」
「クリサ」
名を呼ぶと肝を手に持ったまま固まった。その目が、あの男にあまりにも似ていなかったから、安心した。
「手をちゃんと洗いなさい。それから、その内臓と共に猫を埋めてやりなさい」
「……先生みたいな事言う」
「お前の保護者だからな。お前が一般社会に馴染める人間にする義務がある」
「そっか」
素直なのは良い事だ。
内臓を詰めるクリサを横に、水を汲みに外へ出た。
クリサの出生について、語る事はない。有能なオレの、有能な娘だ。
#####
血を洗い流し、墓を整え、夕刻になったので帰路に着く。その間、クリサは無言だった。夕食の時も。
「今日、アニマから手紙が来た。元気だそうだ」
「…………」
「それにアルトリウスからも。あちらは豊作らしい。楽しくやっていると……」
「…………」
「……学校で、何かあったのか?」
そこでようやくクリサが顔を上げた。いつも通りのようで、どこか悲しそうな雰囲気だった。感情の機微には疎い方だがこれは分かる。いつも聞いているのだから。
できれば相談してほしいと願うが、どうだろうか。父とはいえ、義父だ。言えるだろうか。オレは……言える事と言えない事が半々だった。もしかするとあの男もこうして悩んでいたのだろうか。オレにとってあの男は良き父だったが、クリサにとってオレは良き父であれるだろうか…………悩めば悩む程心が苦しくなってくる。だから、クリサが口を開いた時は少しだけ安堵してしまった。
「あのね。…………友達というのは、どうやって作れば、あ、ごめん。カイウスには友達いなかったね」
「い、い……いないな。ああ。だが、信用を得る方法は知っている。相手と誠実に接し、変な行動を控えれば良い」
「変な行動って?」
「例えば、お前は今日、猫の解剖をしたな? それは世間一般では変な行動に当たる」
クリサの目が丸くなった。
「そうなのか……それで、他は?」
「他って…………ああ、授業に出ないのも、変な行動になるな。それに、宗教にのめり込むのもやめた方が良い」
「敬虔な信徒って褒められるのに?」
「何事にも限度があるだろう? 敬虔な信徒、と評される以上の行動をとるな、って話だ」
「成る程。限度を超える、か……」
またクリサは口を閉じた。今度は食事の手も止まっている。考えるのは良いが食事が冷めるのは……いや、良いか。オレだってきっと、何か迷惑をかけていた。それをあの男は黙認した。オレもそうすべきだろう。限度を超える、のは変な行動だからな。
ただ。悩んでいるクリサは先程よりも楽しそうで。思わず、オレも微笑んでしまった。
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