第5話 規格外なお嬢ちゃん、爆誕・前編





 まさか、高位の魔力感知能力を持つやつが商人してると誰が考える!


 「もう一回聞くけど、お嬢ちゃん、本当に何者だ?」


 ニールからヒソヒソと囁かれる。


 「クラリス、わかんないー」


 再び、すっ惚ける俺。


 「お嬢ちゃんが只者ではないくらい、他にも証明する要素はたくさんあるぞ?例えば、今回のルリについてだ。精米済のルリをワザと小鍋に入れた上で、『更にワザと』水浸しにした。普通の子供はそんなイタズラはしないもんだ」


 ぐぬっ!確かにそうだ。ただの商人だとたかを括って粗の目立つやり方をした俺の落ち度だな。


 仕方ない、バレるならば、なるだけ両親に迷惑のかからない手法を取るのみだ。まずはあざとく可愛らしさ全開でニールをメロメロにしてやるっ!


 「・・・あのね、おじちゃん。クラリス、えっと・・・?」


 美幼女からのあざとい上目遣い攻撃を喰らうがいい・・・って、えぇ・・・。何こいつ、両手で胸元押さえて、なにをショックそうにさめざめ泣いてんだよ。


 「おれ、まだ・・・、二十代、なのに、おじちゃんって、言われた・・・」


 そこかよっ!?意外にメンタル弱いな、この人。あー、だから、誤魔化す意味でチャラ男みたいな外見してるのか。なーるほど、なーるほど。


 「あのね、あのね。クラリス、かご、が、あるの」


 まあ、少なくとも父さんとは旧知の間柄みたいだし、これくらいならバラしても問題ないか。


 「加護ぉっ!?」


 おいこら、声がでけーよっ!?


 「どうしたんだい、ニール。そんな大声をだして・・・」


 ほら見ろ!父さんと母さんが何事かとこっち見てるじゃないかっ!


 「あー、いや、その、なんだ・・・。クロ、お前のとこのお嬢ちゃん、今年で数え歳、三歳だったよな?」


 「そうだよ。それがどうかしたのかい?」


 「そうか。なら、もう神託の儀は受けた後か?」


 神託の儀?なんだそれ?確か今年は三歳だから、商店街をあげて大々的に祝ってくれるみたいなのは知ってるけど。それとなんか関係あることなのか?


 「いや、丁度、来週に受ける予定なんだけど、何かあるのかい?」


 「・・・非常に言いづらいんだが、さっき、このお嬢ちゃんが加護を持っていると教えてくれてな」


 ニールの言葉に、父さん達の表情が凍りついた。


 え?なに?加護は産まれた時点で備わるものだろ?俺は、クラリッサは何かおかしいのか?こんなのゲームじゃなかったぞ?


 「全てじゃないが、俺は看破を使える。お前らの娘が、本当に『現時点で』加護を持っているか確認したい。これは国の法で定められてる事だしな。立場的に俺はやらざるを得ん」


 なーんか、話がとてもとてもきな臭い方向に向かっているんだがーっ!?


 「分かった、グラスリンド王国に仕える君だし、僕らは信用している。任せるよ」


 おいおいおい!やばい、なんか不安になってきた。どうしよう、パパ上、ママ上。


 「クラリスちゃん、大丈夫よ。大丈夫。何があっても、クラリスちゃんは、私達の大切な、大切な娘よっ」


 不安になって思わず両親を見上げれば、母さんが優しく抱きしめてくれた。


 「あー、お嬢ちゃん、俺の説明がなかったな。通常は、数え歳三歳で神託の儀っていうのをこの国の国民全てが受ける義務があるんだ。んで、だ。普通は、お嬢ちゃんがさっき言っていた『加護』をその時に備わる、正確には解禁されるんだよ」


 えぇーっ!?ちょ、ちょっと待ってくれ!と、いうことは?


 「しかし、お嬢ちゃんは神託の儀を受ける前から加護がある自覚を持っていた。更に言えば、さっき、ほんの僅かの間に微弱ながら『魔法』を使ってみせた。なら、悪いが簡易でも直ぐに調べにゃならん。これも俺の仕事なんだよ」


 そう言うが早く、ニールの左眼に何かしらの紋様が浮かぶ。あ、なんか、体をレントゲン撮影されてるみたいな気分になった。


 「・・・マジかよ」


 看破はすぐに終わった。しかし、何某かをつぶやいてからニールは黙り込んでしまう。


 「ニール?ウチの子は、クラリスはどうだったんだい?」


 「まさか、何か良くない加護を持っていたんですかっ!?」


 あまりに黙りし続けるもんだから、父さんも母さんもたまりかねてしまったようだ。


 「あー、すまん。結論から言えば、おたくらのお嬢ちゃんには確かに現時点で加護があった。ただなー・・・」


 「なんなんだい、早く教えてほしいっ」


 「クロ、シャーロットさん。二人のお嬢ちゃんは、『現時点で』創世十二神の加護を二つ所持している『のは』、確認できたよ。つまり・・・」


 「「えええええええええっ!?」」


 あれ?なんだ、バレた加護はたった二つか。なんだ、なんだ、焦って損したじゃねーか!でも、良かった、良かった。


 コレにて一件落着〜なんちてぇーって、雰囲気じゃないな。

 

 「君達二人の娘は『神子』の可能性がある」



 ・・・・・・ハ?



 ・・・みこって、アレか?巫女さん?いや、まて、この場合はー・・・まさかの神子の方?





 え、なに?そんなに大事(おおごと)なん?




          ◆




 「いいか、お嬢ちゃん。神子って言うのは、君みたいに産まれた時から与えられた加護を自覚できている子供の事なんだ。自覚出来ているから、当たり前だけど使用もできる。それも通常の形式である神託の儀を経て自覚した場合と違って、加護を扱うための訓練をしなくても、感覚的に捉え、扱う事ができる。更に神子にも選定階級がある。通常なら、高くても勇者だ、聖女辺り止まりの加護なんだがな。極々たまーに、お嬢ちゃんみたいに創世十二神の加護を与えられる者が現れるんだよ」


 ほえー、俺ってチートじゃん?とか産まれた時から思っていたけど、マジモンのチート存在なのね。


 いや、そうですよねー。産まれた後にステータス確認した時から分かっていた、分かっていたよ、俺はーっ!


 ハッハッハッハッハッハッ・・・・・ふっざけんじゃねー!あのクソアマぁーっ!!


 ただでさえ、目立つ要素しかない美少女主人公ちゃんに転生したのに、さらにチート能力完備とかスーパーイージーモード親切設計だー!ありがとうーヽ(´▽`)/


 と、か、な、る、わ、け、な、い、だ、ろっ!?


 こんだけ盛られに盛られていたら、絶対に面倒くさい展開だらけの人生が確定したようなもんじゃねーかっ!


 こんちくしょおおおおおーーっ!!


 「あー、お嬢ちゃん?なんか、色々と衝撃的すぎて呆然としてるみたいだが・・・大丈夫か?」


 「ぁ、うん。だいじょうぶ、おじちゃん、ありがとう」


 「っぐ。また、おじちゃん・・・」


 しかし、事態は宜しくない展開だ。まさか、前世の記憶があります!などと言えば、一発で頭がおかしい子認定される可能性がある。


 どうする?・・・考えろ、考えろっ!


 「クラリスちゃん」


 「ぇっ」


 必死に回る俺の思考を止めたのは、今世においての母、シャーロットだった。


 彼女はとても優しく、繊細な硝子細工を抱くように愛娘を抱きしめてくれる。


 なんて、温かいんだろう。


 とても、癒される。


 そして、シャーロットこそ、間違いなく、俺(クラリッサ)の母親なんだ。


 「!・・・クラリスちゃん」


 いつの間にか、自然と涙が出ていた。話そう。話せれるまでの内容でしかなくても、シャーロットも、クローシュも、大切な両親だ。なら、前世の記憶がある事だって、きっと理解してくれる、ハズだ。


 話すことこそ、何よりも二人を『親として』信頼している証になる。


 「あのね、お母さん、お父さん。『ボク』、前世の記憶があるんだ・・・」


 「前世の・・・」


 「記憶・・・」


 二人で愛娘の口から齎された、衝撃的な事実を噛み砕いて呑み込むように、クローシュとシャーロットは呟いていた。


 しかし、伝える事実は全てではない。というか、さすがに前世は男で名前以外の記憶と自我がある、とは言えない。言ったら、二人とも卒倒しちゃいそうだし。


 「うん。でもね、断片的で、ソレを思い出すのも夢の中でなんだ・・・」


 そう。俺は産まれた時から、前世の記憶を夢という形で断片的に観る事を繰り返した。


 そういう『本当らしい設定』を作り上げる事にしたんだ。


 ある意味、全て話す方が荒唐無稽すぎて、信じられない可能性を生み出す場合がある。ならば、『上手な嘘』を吐く最大のコツを織り混ぜるだけ。


 嘘の中に事実を混ぜる。


 これが最も信じるに足る情報を生む場合も時にはあるんだ。


 「そうだったのね。クラリスちゃん、お母さん達にキチンと話してくれて、ありがとうっ!」


 「ああ、立派だよ。クラリスっ!流石は僕達の愛娘だっ!!」


 クラリスを抱きしめる二人の力が少し増した。けれど、それは一切苦痛なんてない、とても、とても温かい、家族の情に満たされた抱擁なんだから。



          ◆



 「んで、お嬢ちゃんが魔法を使える理由なんだがな?この娘には、今現在確認できただけで、第三柱神、知識と探求を司る女神ルグラマニス。後は、第十二柱神、創生と命を司る女神エスタエンデの加護を持っている。このお嬢ちゃんはマジモンの神子だぜ」


 「確かに、女神ルグラマニス様の加護を持っているなら、魔法を扱うのは容易だわ。それにエスタエンデ様までだなんて。この事実を知ったら、十二神教会が黙っていなさそうね・・・」


 言いながら、母さんの俺を抱きしめる力が少し強くなった。


 「お母さん?」


 「大丈夫よ、クラリスちゃん。貴女のことはお母さんとお父さんが守るからねっ」


 父さんを見れば、彼もまたにこやかに頷いている。


 「まあ、お二人さん。言うのをうっかり忘れていたが、実は一つ朗報があるんだよ」


 「朗報?それはウチのクラリスにとっての・・・という解釈でいいんだよね?」


 ニールの言葉に、さして疑う様子も見せずに父さんは応対した。それにしても、ニールはなんだか自信がありそうに見える。


 「朗報って言うのは、俺の王立魔法学園時代の同級生が、丁度この街を訪れているんだよ」

 

 王立魔法学園ってーと、にじいろプリズムのゲーム本編で舞台となる学舎だな。そこの卒業生がたまたま来てくれている・・・と。


 「ソイツは変人だ。しかし、腕はマジの本物。なんせ、王立グラノリス魔法学園を主席で卒業し、かの王宮魔法師団から高待遇で勧誘されていた凄まじい経歴の持ち主なんだよ。残念な事に地位や名誉にはとんと興味を示さなかった稀代の変人!全く、せっかくの美人がもったいねー!あの貧乳残念変人女がぁっ!!!」


 あー・・・、めちゃくちゃ聞き覚えがある設定だわー。


 これ、今後の展開がよめる。絶対に『あの人』が出てくるじゃん!その人物は、間違いなく、ゲーム本編にも登場している。


 簡単に言えば、クラリスにとって憧れの存在でもある魔法の師匠だからだ。


 まさか、こんなに早くクラリスの師匠さんと出会う機会があるなんてなぁ。


 「ちなみに、そいつは十二神の加護持ちでもある。美人だが貧乳で変人。魔法に関しちゃ天才。あと、そいつなら俺以上の看破の魔眼を持っている。お嬢ちゃんがいくつ加護をもっているかもわかるハズだ」


 なるほど。


 しっかし、ゲームより相当早く出会うことになるとはなぁ・・・。


 ニールが言っていたように、確かにあれは、変人だ。しかも破天荒が鎧を着ている様な人物。


 正直に言えば関わりたくない。しかしー。




 「おや、おやおや、おやおやおや。クラムベリル商会のみなさんではないですか」




 俺たち家族+1の空間に突如として割り込んできたのは、例のスケベウシガエル、ブラマニールだった。




          ◆




第六話 規格外なお嬢ちゃん、爆誕・後編につづく





第六話 2022.01.08.更新予定

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