第4話 俺、クラリッサ。3歳になりました。後編




 明けて今日。


 本日は晴天なり。


 「ふわぁっ!!すごい!すごい!!ひとがいっぱい!!」


 卸しが行われている港は、活気にあふれ、多くの人々で賑わいをみせている。


 あ、ネコ型獣人がいる!すげー、初めて見た。しかもめっちゃ可愛い。あの耳や尻尾をもふもふしたいっ!


 「どうしたんだい、クラリス。・・・ああ、獣人が珍しいんだね?」


 生で見る初ケモノっ娘に興奮を抑えきれなかった俺にパパ上が気づいた。ええ、ええ、猫耳、尻尾、たまんないよ、パパ上。もふもふしてーっす。


 「クラリスちゃんは獣人は初めて見たものね、物珍しくても仕方ないわよ、あなた」


 俺は卸しが行われている港に家族で出向いていた。両手左右でちょこんと両親二人の手を掴み、ザ、仲良し親子が歩く風景とはかくあるべし!な如く港の卸区間を闊歩する。


 「おとーさん、おかーさん、しょーひんがたくさん、あるよっ!」


 右を見ても、左を見ても、あるは、あるは!輸入品の数々が!しかし、見たことない物ばかりだから、さっきから内心興奮しっぱなしだ。


 さすがはファンタジー異世界の面目躍如か。


 あ!あれはなんだ?見たことない鳥だ。羽根が七色に輝いてる。すげー。


 「おとーさん、あの、きれーな、なないろのとりさんはなーに?」


 「ん?あー。あの鳥はね、極彩鳥という南方諸島に生息する珍しい鳥だよ。一般的には鑑賞目的で飼育される事が多いけど、実は食べてもすごく美味しいんだよ」


 ほえー、てっきり鑑賞目的だけかと思っていたのに、食用にも適してるなんて凄いな。というか、流石は元行商だったパパ上。


 知識とか凄いんだけどー、ん?あれはー、まさかっ!?


 「おとーさん、アレはなにー?」


 「あれはー。・・・んん?初めて見るな。なんだろう?」


 「あら、あなたが知らないなんて珍しい品なのね」


 俺が指差した卸し店の店頭で無造作に並べられた幾つかのズダ袋。その中に入っているのは、まだ青々とした成人の子指先くらいの大きさをした豆みたいなモノ。さらにはそれよりかなり小さく尖った薄茶色の表皮に包まれた楕円状のモノ。


 他にも数多の輸入食料品があった中で、俺はその正体に誰よりも早く気付いた。だから、指差して父さんと母さんの気を引いた。コレらが俺の知る通りのモノなら。更に言えば、この価格で買い占められるなら、我が家に莫大な利益を齎せるだろう。


 その品とはー。


 コーヒー豆とお米である。


 お米は日本人なら誰もが生涯にわたって口にする機会が多い主食炭水化物。パンなどに加工しなければならない小麦より安易に用意でき、また小麦並に食料品使用用途の幅も広い。何より、このハインスリン侯爵領は稲作に適した気候風土だ。これを用い、主食としてこの地の食文化に根座せれば、それを齎した我が家の評判はこの領内に止まらず、国を駆け巡る事だろう。


 なにより、元日本人としてはご飯が恋しい。


 この問題は中々に由々しき案件なので、俺は米の普及に全力を尽くす。今決めた。


 コーヒーは、ただ単に俺が前世で好きだっただけ。しかし、今世において、この国では嗜好品としては普及どころか存在すらしていなかったようだ。紅茶はあるのにな。あと、一般的には何故か嗜好品として、緑茶が存在している。


 ・・・パンを緑茶の御茶請けにする違和感はかなりヤバかった、とだけは残しておきたい。


 「おうっ!誰かと思えば、クローシュじゃねーか。どうしたい、今日は。お前にゃ勿体ない、女神さまみたいに美人な嫁さんと、天使そのままな美少女の愛娘を引き連れてよ」


 そう茶化す様な口調で父さんに話しかけて来たのは、よく日焼けした浅黒い肌の男。ぶっちゃけ、第一印象はチャラ男だ。服装は動き易さを好むのかかなり露出度は高め、男の露出度が高くてどんな需要があるかは不明だがな。


 「やあ、帰ってたんだね。半年ぶりかな?元気だったかい、ニール」


 父さんが笑いかけている。どうやらこのチャラ男、父さんとは以前から交流があるみたいだ。


 「ニールさん、お久しぶりです。前は東南大陸へ行ってらしたんですよね?」


 おっと、母さんとも知り合いなんだな。


 「ああ、マジ久しぶりだな、クロ、シャーロットさん。相変わらず仲良し夫婦なことで。はー、今日は余計にあちぃ、あちぃねっ」


 チャラ男改めニールは態とらしく手で顔をパタパタ煽ぎながら、仲良く寄り添う眼前の我がパパ上、ママ上をニヤニヤしながら揶揄う。


 ふむ、父さん達はこのニールという男とはかなり良好な間柄みたいだな。


 「で、三年前にシャーロットさんのお腹の中に居たのが、お嬢ちゃんってわけか。いやー、噂通り天使みたいに可愛いな。お嬢ちゃん、シャーロットさん似で良かったね?将来、超美人さん確定だよ。モテモテも確定だ」


 いやー、これが父さんみたいな美形イケメン確定だったら、俺も手放しで喜べたんだけどねー。不本意ながら、超絶美少女(巨乳)確定なんすわ。なんで超複雑。


 いや、仮にアンタに愚痴っても理解はされんだろうなと思うけどさ。


 「それ、なーに?」


 さて、さっさと本題に入ろう。時間は有限だ。時は金なり。コレらをキチンとうちで当面は独占販売できるかが母さんの命運とかを握っている。腕利き行商だったパパ上の本領を発揮させる時だぞ。


 「あー、これは東南大陸原産の主食ルリと嗜好品のカーフェだな。なんだよ、その歳でもう商売に興味があるのかい?」


 「へぇ〜、この小さな楕円形のが主食なのかい?」


 「ああ、そうだ。コレを蒸したり、小麦同様に粉末にしたりして麺類とかに変えたりして食すんだ。結構美味かったぜ」


 「なるほど、なるほどー。それで、他にはどんな調理方法がありますか?脱穀は小麦と同じ手法でいけますか?それから〜♪」


 あ、母さんが完全に主婦目線になった。それだけではない・・・か、さすがは商人の妻ってところかな?毎日、店頭に立って売り手をするのは母さん。だから、少しでも原産地を知る人から活きた情報を仕入れているんだな。


 さて、でわ、クラムベリル商会の愛娘も一肌脱ぎますかね。


 「この、まっしろな、つぶつぶは、なーにー?」


 「お、嬢ちゃん、いい物に気付いたな!これは今言ったルリを脱穀したモノなんだ。現地の人らは確か精米とか言ってたな」


 精米済の米も並んでいたのは、この卸屋いい仕事してるな。まあ、精米しちゃったら、早く食べないと傷むが。


 「へぇー、こんなに真っ白なんだね。これを砕いて粉にしたりして使うと。ふむふむ」


 「でも、結局加工して使うのが主流なら小麦とあまり代わり映えしないわね?確かに面白い食品とは思うけど・・・」


 まあ、二人の懸念は尤もだわな。コレは米を茹でて食べる食文化が根ざしてないと、案外、気付かないのかもしれない。ならば、また異世界助言の出番だな。


 まずは精米済の米を適当な器にー、お、コレでいいな。移すのは風魔法を使ってチャチャッとな。いま、父さん達三人は商談中だし、周囲からの人目もない。よし、米を入れた器に、水筒から水をじゃばじゃばーっと。


 「あっ!クラリスちゃん、イタズラしたらダメよっ!めっ!」


 ママ上にタイミングよく見つかって怒られてしまった。だけど、これは必要な投資だ。甘んじて受けようぞ。


 「すまない、ニール。商品をダメにしてしまって、これは全部うちで買い取らせてもらうよ。しかし、水浸しにしたら・・・。?、ニール、どうしたんだい?」


 「あー、いや、これ見て思い出したんだが、確かこいつを湯がいて主食として食べるという食文化がある。せっかくだし、煮てみるか?無論、水浸しにしたこの分は買い取ってもらうが」


 「ああ、それで構わないよ」


 父さんからの返事を受けるとニールは奥に引っ込んだ。そして大した時間もかからずに再び表に出てきた。その手には携帯型の正方形の箱と水浸しになった米の入った小さな片手鍋がある。


 「さて、煮てみるか」


 「じゃあ、私にやらせてください」


 母さんが名乗りを上げて、テキパキと用意をしていく。あ、母さんが箱に魔力を注いだな。ということは?


 シュボッ!という音を立てて、箱の上部から火が着いた。


 なるほど、携帯コンロの魔道具ってわけだ。


 箱の上に片手鍋を置く。



 「「「・・・・・・・・」」」



 米が煮られている鍋を見守る三人+俺。しかし、御三方。鍋に蓋しないのかな?しないんですか、しゃーない。


 「あいっ!ふたさん!!」


 俺がしゃしゃり出て、片手鍋に木蓋をする。


 「あら、うっかり蓋を忘れていたわね。クラリスちゃん、ありがとう♪」


 「にへへ〜♪」


 そんな褒めないでおくれ、ママ上。照れちまうぜぃっ!


 「でも〜?危ないから、次からはキチンとお母さんに言うんですよ?」


 「あいっ!」


 でもキッチリ〆るべきところは〆た。母さんは良い母親だと思う。今世でもそんな両親を親に持てた俺は幸せものだ。


 それからしっかり三十分程時間をかけて、見事に白米を炊き上げた。


 「甘い、良い匂いがするわねっ」


 「ああっ!これは美味しそうだね!」


 懐かしい白米の匂い。コレだよなぁ!食欲が刺激される。両親にも概ね好評みたいだ。


 「こういう食い方は俺は初めてなんだけど、確かに美味そうだっ!」


 全員で炊き上がった白米をスプーンで掬い口に含んだ。


 あチッ、アチチッ!でも、懐かしい味が口いっぱいに広がる。ほんと、懐かしくも・・・美味い。


 「これは、うんっ!イケるね、美味しいよ!」


 「そうね。パンとは全く違うけど、これは色々な調理法が使えそうだし、間違いなくこの街のみんなにも気に入ってもらえるわ♪」


 どうやら二人はお米に新たな商機の確信を得たみたいだ。良かった。


 「なあ、お嬢ちゃん」


 喜ぶ両親を横に白米を堪能している俺へニールから声をかけられた。


 「お嬢ちゃん、一体、何者だ?さっき、こっそり魔法使ってただろ?」


 ・・・はいぃっ!?


 「もぐもぐ、なんのことですか?クラリスわかんない」


 すっ惚けてみせるが内心は動揺しかない。つーか、魔法使ってたのはほんの一瞬だったんだけどなぁー。


 なんでバレたんかねー。


 「お嬢ちゃん、俺はこう見えて、王都にある王立魔法学園の卒業生なんさ。で、俺の得意分野は魔力感知。感知精度だけなら王宮魔法使い並なんだぜ?」


 ええええええええええっ!?


 マジかよ。どうしたもんか。


 内心の冷や汗が止まらない。俺、どうなっちゃうんだぁーっ!?




          ◆



第五話 規格外なお嬢ちゃん、爆誕・前編


2022.01.06更新

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